Mさんは40歳を過ぎた頃から中毒症状を感じ始めたといいますが、40代半ばに情報との付き合い方を本気で変えないとまずいと感じたのには、もう一つ大きな理由があったといいます。
それは、SNSなどの情報が「思考」を奪うという危機感でした。40代の情報との付き合い方が、20代や30代とは異なる部分は、知識があるかどうかより、断片的な情報を自分の頭の中で編集し、それを他人に伝えることが強く求められるということです。
例えば、ネットで検索すればメガバンク、あるいは地銀の勘定系システムのベンダーや特徴は簡単に調べられます。それらの金融機関の情報も、日々のニュースやSNSで流れてくるでしょう。
30代までは、それらの知識をもとに状況を概観するのが最低限のレベルです。しかし、地銀各行が系列ではなく、同じベンダーの勘定系システムを使っているという理由で経営統合を検討する時代、チームを率いる40代に求められるのは、どういう切り口で営業を進めるべきかという「戦略思考」です。
ネットを駆使しても、その切り口は見出せません。もちろん、誰かが言っていることを、あたかも自分の意見として語ることはできるでしょう。ネットの情報は非常に断片的で、わかったような気にさせる魔力を持っています。ネット上で極端な意見が多いのは、匿名性の問題だけでなく、断片的な情報だけで意見を言うこととも関係していると思います。
実際に戦略思考を磨き上げ、大型プロジェクトを次々受注したMさんが、自分の頭で情報を編集し、他人に伝えるトレーニングとして実践していたのは、ベースとなる知見を厚くすることと、実際に現場で起こっていることを的確に把握しようとした2点です。
前者のためにはマーケティングや戦略論など本格的な専門書をしっかりと読み込み、後者のために、ミクロ的なところでは現場のユーザーやキーパーソン、マクロ的なところではアナリスト、新聞や雑誌の記者、編集者から直近の情報を仕入れるようにしていました。
専門書から得た情報を縦糸、ミクロ、マクロとも人を通して得たライブ情報を横糸にして、必ずMさんは自分で仮説を立て、営業に役立つ切り口にして既存顧客、新規顧客に対して発信していました。その結果は、相手が関心を持つか否かという明確なフィードバックとなってMさんに戻ってきました。そのPDCAサイクルを回すことに、Mさんは頭と時間を使ったのです。
誤解されないように付け加えれば、SNSなどが悪だということでは決してありません。依存症になれば無駄な時間を奪われますし、その情報洪水に埋没すると、自分の意見か他人の意見かの区別がつかなくなって、自分で考えることができなくなってくるのです。SNSの情報を効果的に仕入れ、それを自分で編集し、他人に伝えられるように、適切な情報との付き合い方をすることが必要があるということです。
40代は情報を知っていることより、その情報をどう語るかが求められる年代です。本当に貴重な情報はネットには転がっていません。そう考えると、そこまで過剰な情報に反応する必要はないのです。
自分にとって本当に重要な情報とは何か、情報をもとに何が語れるのかを見極めながら、情報との付き合いを制限するルールを決めてみましょう。
第12回に続く(6/20公開予定)