内向型人間が最強のチームをつくる

この本の『最高のリーダーは何もしない』って、すごいタイトルですよね。じつはこれ、担当編集の藤田さんが考えてくださったタイトルです。

じつは私は当初、すごく抵抗感があったんですよ(笑)。私もリーダーという立場にいるので、「藤沢はそんなふうに考えて仕事をしているのか」「言い訳のために本を書いたのか」などと言われると思いました。

ただ、久しぶりに本を書くと決めたわけだし、本ってたくさんの方に読んでいただけるかどうかがタイトルで大きく変わるので、ここはプロに任せようと決めました。おかげさまでたくさんの方に読んでいただけて、しかも、読んだ方からは「『何もしない』ってそういうことだったのか。目からウロコでした」という感想をいただけています。ですので、今は「これでよかった」「正しかった」と思っています。

そしてサブタイトルとして、「内向型人間が最強のチームをつくる」という言葉を入れていますが、それが、私が書きたかったことの2つめです。リーダーというと、強くて、みんなをぐいぐい引っ張っていくというイメージがありますが、本当にそうなのだろうか、と疑問を感じていました。

今からするお話は私の経験談で、本には恥ずかしくて書けませんでした。ここだけの話として告白します(笑)。

先ほどお話ししたとおり、私はダボス会議のヤング・グローバル・リーダーに選ばれたのですが、当時は海外留学の経験がまったくありませんでした。いい勉強の機会だと思って参加を決めたわけですが……じつは私、英語が全然できなかったのです。なんとかなるかと思って参加したんですが、まったくなりませんでした(笑)。

ダボス会議は、ほぼすべてディスカッションです。世界の課題、たとえば「2030年の世界はどうなっているか」っていうデータをみんなで見て、「こんな問題があるね」「この問題を解決するために、こんな活動をしてはどうか」という話をするわけです。でも、英語ができないので、まったく議論に入れない。

それに、当時は世界のことをそんなに深く考えてはいなかった。貧困問題、難民問題、温暖化など、ニュースでは聞きますが、そんな身近に思ったことがないし、知識もない。落ちこぼれ感満載なヤング・グローバル・リーダーでした。

英語力がないのに国際舞台でリーダーに

それでも、せっかくの機会を逃してはもったいないので、次の機会も参加することにしました。私はほかのリーダーのように気の利いたことも言えないし、知識も持っていない。そんな私に何ができるだろうか。そう考えたときに思いついたのが、「書記をやろう」ということです。

10人くらいのグループになってディスカッションをするのですが、そのときにホワイトボードの前に立って書記をすることにしたのです。スペルを間違えることもありましたが、グループのメンバーたちが教えてくれました(笑)。

慣れてくると、書記をしながら「あれ、これについての答えはどうなっているの?」とか、「その意見って要するにこういうこと?」など、だんだん質問できるようになっていきました。そして、いよいよグループ全体の発表をすることになったとき、メンバーから「Kumiはいつもみんなの意見をまとめてくれているのだから、発表もKumiに任せるよ」と言われ、チームの代表としてみんなの意見を発表する機会をいただくようになりました。それからは、ディスカッションするたびに、「はい、リーダーはKumiね」と。「ああ、そんなことがあるんだな」と感じましたね。みんながやらない地味なことをしていただけなのに、みんなが存在を覚えてくれ、いつの間にかリーダーになってしまった。

ヤング・グローバル・リーダーの日本の会員の中でも、飲み会の幹事をするなど、とにかくお世話役をやっていたら、ダボス会議のボードメンバーに入れてもらえるようになりました。

「何か困っている人はいないかしら…」「みんなに何をして差し上げたら議論しやすくなるのかしら…」——そういったことを考えていただけなのに、気がつくと「リーダー」っていう肩書きになっていたりする。

そういう経験をしたことで、ぐいぐい前に出て行ったり、「オレについてこい!」と先陣を切ったりすることだけがリーダーへの道ではないのだな、ということを実感したのです。