「やる」「やめる」「リスク量を判断する」

リーダーが「決める」べきことは3つあります。

1つは「やる」という意思決定。
2つ目は「やめる」という意思決定。
そして3つめは、どれだけお金を使うのか、どれだけ人を投下するのか、そういった「リスク量を判断する」ということです。

「やるのかやらないのか」「やめるのかやめないのか」「リスクをどれだけとるのか」。この3つをどれくらいの速さで意思決定できるか。その「決める力」が、現在、世界各国のリーダーにおいても、企業のリーダーにおいても、大きな差を生む。そのことを、ダボス会議や視察に行った国々、また多くの社長さんたちから感じます。

先進国には議会制民主主義がありますが、それが「ねじれ」を生んだり、なかなかものが決まらなかったり、という弊害を生むこともあります。

問題は見えているし、解決策も見えているけれど、一部の利害関係がある人によって合議がままならず、問題が解決しない。そういうことが世界中で起きていく中で、「やるのかやらないのか」「続けるのかやめるのか」「リスクをどれだけとるのか」を、スピーディに決めている国、企業が伸びていく時代なのです。

日本で10年近く企業の経営者さんたちのインタビューをしてきましたが、元気な企業はみな、「速く決めて、速く動く」ということを実践しています。

多様化する社会に、正解はない

それと同時に、重要なのは、できるだけ現場に権限委譲をしていく、ということです。現代はまさに、誰も意思決定できない、誰も世界のルールを決められない、混沌とした時代です。大きな国も小さな国も、大企業も小さな企業もあって、個人の価値観もいろいろある。

みなさんもそう思ってらっしゃるかもしれませんが、私はグローバル化の本質は、多様化、ダイバーシティだと思っています。価値観が多様化する中、「これが正解」というものはないし、男性中心にものが決まるという時代ではなくなっています。

日本もようやく女性の活躍と言っていますが、オリンピックに向けては「LGBT」という言葉も聞かれるようになりました。レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー。性も13種くらいあると言われています。

いろいろな国の人が知恵を出し合って社会を動かしている時代になり、これをつくっていれば売れるというような常識ももうない。みんな価値観が違うから、何が売れるのかわからないのです。どうしたらいいかというと、とりあえずつくって、世に出してみるしかない。

「やると決める」。世の中の人に「どうですか、いかがですか」と問いて、いいと言われたらさらに資本投下、人材投下をする。反応が悪ければ「やめる」。微妙であれば、資本投下をどれくらいするかという「リスクをはかる」。

これがまさに経営者やリーダーの決めることであり、そういうことを繰り返していかないと、多様化がどんどん進んでいく中で、世の中に受け入れてもらえません。

ITの世界では、素早い、俊敏な、といった意味を持つアジャイル開発といった言葉が言われていますが、永遠のベータ版というか、完成版はなく、つくりながら、改良しながら、ユーザーに問うていく、ということです。

それを実践するには、トップ1人の知恵では不可能です。いろいろなものを世の中に提示し続けるには、いろいろな知恵を借りなくてはいけないし、「現場の力」を借りなければいけません。

そういう時代になっていることを、海外に行ったり、国内で社長のみなさんにインタビューしたりしながら、しみじみ感じます。そういう経営をしていらっしゃる社長さんのお話を、ぜひ多くの方に知っていただきたい。そんな想いが『最高のリーダーは何もしない』を書かせていただいた背景にあります。