リーダーとフォロワーを自在に切り替えられるか

【藤沢】リーダーが仕事しやすいように、自分はどう支えたらいいのか。田坂さんはそれを考え尽されてきたからこそ、部下から意見されても耳を傾けてくださるのかなと。きっと、そのバランス感覚をお持ちなんですよね。

【田坂】「最高のリーダーは何もしない」わけだから、私は最高ではなかったということになるかな(笑)。

【藤沢】最高のリーダーは何もしないけど、実際のところ、最高の中間管理職になるには、いろいろしないといけませんよね…(笑)。

【田坂】つまり、誰を大切に思って動いているかなのですね。私自身は、それが働くことの原点なのです。「はたらく」、つまり、「はた(傍)を、らく(楽)にする」ことには、喜びがある。誰かに仕えることは、実は、うれしいことなのですね。

逆に、「誰かに仕えるのはいやだ」「誰かに仕えてもらいたい」と思う方は、リーダーにはならないほうが良いと思います。誰かに仕え切るということは、実は、すごく難しい。だから、その難しいことを体験したうえで、リーダーになっていただきたい。

私は、今も、フォロワーをやれと言われたら喜んでやると思います。「人生、最後はリーダーになるのが目標だ」といった思想は持っていませんし、ここはフォロワーに徹するべきだという瞬間は、いまでも、いくつもありますから。

人生というのは、ずっとフォロワーという下積みをやってきて、「いよいよリーダーをやるときが来た!」というものではないのですね。むしろ、瞬間的に、その場その場で「切り替え」をやっていく。今日の藤沢さんもそうですね。いつもはリーダーとして仕事をしていながら、この時間は、私を立ててくれて、フォロワーに徹してくれている。その藤沢さんの切り替えは見事ですし、私も、何歳になっても、そうした切り替えができる人間でありたいですね。

【藤沢】十数年一緒に働き、田坂さんから時にはかなり厳しくいろんなことを教えていただきましたが、いま自分が文部科学省で自分のチームを持ち、リーダーになったとき、「田坂さんがおっしゃっていたことは本当だったな」と感じることが多いです。

【田坂】藤沢さんの言われるとおり、私は藤沢さんに対して、かなり厳しいパートナーだったと思います(笑)。ただ、少しだけ居直って申し上げると、私自身も厳しい師匠や上司と巡り会ってきましたし、それが、自分の成長にとって、良かったなと思うのも事実なのですね。

たとえば、東大の医学部で研究をしていたときの師匠は本当に厳しかったですね。いい加減なレポートを書くと投げつけられたし、話が下手だと途中でやめさせられた。しかし、そのお陰で、今日、私は、本を書いたり人様の前で話をしたりする機会をいただいているのですね。そして、この教授には、やはり弟子に対する深い愛情があった。だから、私は、この教授には、本当に感謝しています。

昨年上梓した『人生で起こること すべて良きこと』(PHP研究所)でも語ったことですが、人生における人との出会いには、意味のないものは一つも無いのですね。みなさんが、いま仮に「あんな上司、嫌だ!」と思う方がいらっしゃったとしても、その出会いの意味を深く見つめ、「ああ、いま、天の声は、これを学べと言っているのか」「人間として、こう成長せよと言っているのか」という受け止め方ができれば、その出会いは、必ず、自分自身の成長の糧になっていくのですね。

その意味では、この16年、私が藤沢さんに何かを教えたということではなく、すべての出会いから「何かを掴む力」を藤沢さんがお持ちだということです。そして、その力を持って、千人を超える経営者の方々と真剣勝負を続けてきたということは、すごいことだと思います。

【藤沢】ありがとうございます。