テレワークの魅力は物理的な距離を超えること以上に
自分のポテンシャルを最大化できることにある

平野 ワークスタイルの変革という点は、レノボ自社でも積極的に取り組んでいますよね。

留目 社内に留まらず社外に出てもっと発想を広げていこうという目的のもと、たとえばテレワークを推進しています。また、さまざまなスタートアップ企業のイベントをスポンサードさせてもらったり、地方自治体と一緒にプロジェクトに取り組んでみたり、社外との関係性を強化しています。

平野 留目さんご自身もテレワークを実践しているのですか?

留目 ええ、かなりやっています。会社にいても大会議室での会議は極力やめていて、自分が議長役を務める会議でも自室から出席しています。会議という“場”を作ってしまうと、どうしてもその場に集まることが主たる目的になってしまうので、場をつくらずにテレワークしやすい環境づくりを自分自身も心がけています。環境を変えると、外に出かけて人に会う時間が増えたり、考える時間を確保できて、色々な刺激を受けられますよね。

平野 マイクロソフトでも、ワークスタイルの変革に相当力を入れているんです。今年5月には日本マイクロソフトの就業規則を改めて、従来の在宅勤務制度から取得できる日数・申請手続き・勤務場所などの制限を取っ払い、フレックスタイム制度においてもコア・ワーキングタイムをすべて撤廃して、テレワークを実践しやすい環境整備をさらに進めました。
 こうしたワークスタイルの変革は、日本でも多くの企業が取り組んでいますが、私がいつも考えているのは、「働き方のルールを変えた」だけで終わってしまったら意味がない、ということです。この対談で再三あがっている物事の本質の話ともつながるのですが、「なぜルールを変えたのか」という根本的な理由を明確にしなければなりません。
 テレワークのメリットとしてよく言われるのが「職場でおこなっていた仕事を家でもできるようになること」ですが、そこが真のポイントではないと私は考えています。では、当に大事なことは何かといえば、「自分のポテンシャルを最大限に発揮できる環境をつくること」ではないかと。育児をしなければならない、親の介護をしなければならない、というのはあくまでも働く環境を形作るファクターの一部であり、そうしたことも含めて自分の実力をもっとも出し切れる環境を作っていくことがテレワークの真の目的だと思うのです。

留目 そうですね。実際、社内の雰囲気は変わりましたか?

平野 変わってきてはいますが、理想とする到達点に比べれば、まだまだです。ワークスタイルの変革は終わりがない旅路のようなもので、やらなければならないことは山のようにあります。それらをひとつひとつ変えていくことが、ひいてはお客様からわれわれへの信頼にもつながると思います。逆に、われわれが自ら変える努力を続けなければ、デジタル・トランスフォーメーションに関するどんな提案をしてもお客様に怒られるだけですからね(笑)。

留目 まさにそうですね。テレワークは団塊ジュニア世代に介護ニーズが高まるタイミングで大きく拡大するでしょうが、そうしたギリギリの必要性に迫られなくても、自分の仕事をよりクリエイティブなものにしていくため、社外からの学びを得て自分自身をもっと成長させていくための新しい働き方として、テレワークを活用していくことが大事だと思います。
 実際、自分自身がテレワークを実践して、社外の人たちと出会う機会が多くなったことでさまざまな刺激を受けて、自分の考え方もどんどん変わってきている実感があります。そうした刺激をもっと多くの社員たちに感じてもらいたいですし、そのための手段としてデジタル・トランスフォーメーションを役立ててもらいたいですね。