デジタル・トランスフォーメーションが進展しても
特定の組織のなかで働くことの意味とは?
平野 デジタル・トランスフォーメーションによってテレワークが進むなど、ワークスタイルが変わっていくことで、個人が特定の組織で働くことの意味も変わってきていると思います。何のために会社で働いているのか。その価値の置きどころについて、留目さんはどのようにお考えですか?
留目 私にとって会社とは、ある目的を実現するための大きなプロジェクトだと認識しています。レノボを例にすれば、コンピューティングパワーをよりパーソナルなものにしていくという目的のためにわれわれは集まっています。その会社、その組織でしかできない事業は間違いなくあると思うし、それをやりたい人たちが集まって、さまざまなアイデアを出しながら試行錯誤を繰り返して目的を実現していくことが、会社組織のあるべき姿ではないでしょうか。
平野 留目さんがおっしゃる“目的”は、“企業ミッション”という言葉に言い換えることもできますよね。たしかに、マイクロソフトで働く理由を突き詰めていけば、最終的には先ほど話した「地球上のすべての個人とすべての組織に、より多くのことを達成できるようにする」というミッションに行き着きます。
留目 だからこそ、組織のトップは全社員が共感できるような目的やミッションを打ち立てて、そのメッセージを繰り返し発信し続けなければいけないと思っています。
平野 その点で言えば、やはり米国本社CEOのナデラは優れたリーダーだと思います。その象徴的な出来事が、Windows 10を発表したときにありました。これまで歴代の社長たちは新製品の発表をニューヨークのタイムズスクエアなど人々の注目が集まる大きな会場でおこなっていました。しかしWindows 10のとき、ナデラは少数のクルーとともにケニアの貧しい村を訪れて、そこで発表したのです。当然その村にはメディアは集まっておらず、発表の模様は自分たちで写真やビデオに撮りました。
留目 斬新な試みで、ナデラCEOならではですよね。
平野 この行動は、彼がどれほど強い意志をもって「地球上のすべての個人」というミッションを掲げたのか、そしてその言葉の真の意味がどこにあるのか、全世界の人に強烈なメッセージを伝えました。もしニューヨークでどれだけ趣向を凝らした発表イベントをおこなったとしても、これほど強烈なインパクトを世界に与えることはなかったと思います。
そのミッションに共感するからこそ、社員たちはマイクロソフトという会社に魅力を感じ、同じ志を持った仲間たちとそのミッションの実現に貢献したいと本気で思うからこそ、マイクロソフトで働きたいというモチベーションが醸成されるのだと思います。
留目 コンピューティングパワーがパーソナルではなかった時代に比べれば、今は本当に便利になったし、生活も仕事も楽しくなっています。われわれはテクノロジーを社会に普及させるビジネスに長年取り組んでいますが、つくづくテクノロジーは人を幸せにするものだと実感しています。マイクロソフトのミッションにある「人々がより多くのことを達成できるようにすること」は、テクノロジーの仕事にかかわるすべての人間の思いだと思うし、それこそがこの仕事の醍醐味だと思います。
いつでもどこでも仕事ができる環境だからこそ
リーダーには生産性を維持するリカバリーも大切
平野 本当に、変えなければならないこと、考えるべきことが、山のようにありますね。
留目 平野さん自身も非常に忙しいなかで、ワークスタイルを変えたり工夫されているところはありますか。
平野 デジタル・トランスフォーメーションの模範にならなくちゃ、とは思いますが、最近考えているのは、リーダーとして十分以上の生産性を維持できるように、いかにリカバリーするかという点ですよね。睡眠不足だとかいうのは、自分が二流だと公言するようなものだと思いまして(笑)。いつでも、どこでも仕事ができる環境になったからこそ、余計にリカバリーに関心が向いています。
あとは、自分が何にモチベートされているか意識して−−−私の場合は、意志決定のプロセスに入れるとか、自分の仕事の結果がみえるといったことですが−−−それを維持できる環境を常につくろうと思っていますね。
留目さんご自身はモチベーションを維持するうえで気をつけている点はありますか。
留目 仕事に対するモチベーションは、なぜその仕事をするのかという目的がはっきりしていることが大事ですよね。われわれは今テクノロジーのビジネスをやっていて、本当に便利になって生活が楽しくなりましたが、ここで終わりじゃない。もっとよりより生活や社会を実現していきたいという思いが一番のパッションのもとではないかと思います。