8月27日、渋谷セルリアンタワー東急ホテルにて「ふくしま美酒体験in SHIBUYA」が行なわれた。昨年、一昨年とザ・リッツ・カールトン東京で開催されて話題を呼んだイベントだが、8000円という参加費に躊躇しているうちにチケットが完売。熱烈な日本酒ファンとしては溜飲が下がらなかったイベントだけに、今回チケットが5000円に値下がりしたこともあり、今年こそはとためらうことなく参加した。

ここ数年とみに進境著しい“ふくしま美酒”を体験する42の蔵元が集結し、680人が来場した「ふくしま美酒体験」。「にしんの山椒漬け」「いかにんじん」など郷土料理が供されるという心配りはうれしい。とはいえ、ビュッフェ形式の会にありがちな、食べきれない量の料理を取るだけ取ってテーブルに放置しておくのはマナー以前の問題ではないだろうか。いい加減勘弁してほしい。

 もっとも理由はそれだけではない。本コラムの第9回「公開きき酒会で探る日本酒の新たなトレンド」でも書いたが、「平成21年酒造年度全国新酒鑑評会において、福島県が金賞受賞数(20蔵)日本一」になったことが最大の動機である。

 なにしろ金賞受賞蔵の数を過去5年間遡るだけでも、平成17年酒造年度が23蔵(日本一)→18年度:21蔵→19年度:17蔵→20年度:18蔵という、ハンパない好成績を修めているのだ。

 風もほとんどなく、うだるような熱気とアスファルトからリバウンドした熱風を容赦なく浴びながら開演時間の5分前に会場に到着。入りは6~7割程度だろうと高をくくっていたら、会場内はすでに9割近い人で賑っていた。

 当日は42の蔵元が出展。来場者数も約680人と、各県の酒造組合が主催し都内で行なわれる日本酒イベントとしては最大級の入場者数であり、福島県酒に対する注目度合いが感じられる。

“味のデパート”に望まれた
決定打を放つ地道な取り組み

ここ数年とみに進境著しい“ふくしま美酒”を体験する入場時に渡された猪口。その裏側には「金賞受賞日本一」の輝かしい文字が躍っていた。

 開演後まもなく始まった主催者挨拶のなかで、新城猪之吉・福島県酒造組合会長(末廣酒造社長)は「金賞受賞数で新潟を2回負かした!」と豪語。「決してフロックではない、福島酒の真の実力」を力説していた。

 福島県の日本酒といえば、かつて兵庫、京都、秋田、広島に次いで全国第5位の生産量を誇り、県の有力な産業の一角を成してきた。ところが1973年をピークに生産量は下降の一途をたどり、需要もまた他県以上に低迷が続く。そうした環境下での快挙なだけに感慨もひとしおだったのだろう。

 周知のように、福島県は本州では岩手県に次ぐ面積を持つ。その広大な県土は、会津地方、中通(なかどおり)地方、浜通(はまどおり)地方という東西3つのブロックに分かれており、文化・風土・気候、はては人間の気質まで異なるといわれてきた。

 食文化を象徴する日本酒も同様で、きめが細かくやさしい濃醇な甘口タイプが多いのが会津エリア。「福島の酒」にピンとこなくても、「会津の地酒」と聞くと共鳴する人は多いのではないか。福島市、郡山市など県政・商業の中心地を擁する中通エリアは蔵ごとの個性を明確に打ち出しているタイプが少なくない。また、太平洋を臨むいわき市、相馬市などを擁する浜通エリアはあっさりとした淡麗タイプが主流といわれる。