円高株安に歯止めがかからない。日本銀行や政府の後手の対応は市場からまったく評価されなかった。
日銀は8月30日、臨時の金融政策決定会合を開催し、政策金利で社債や国債を担保に金融機関に貸し出す新型オペの枠を20兆円から30兆円に拡大し、従来の3ヵ月物に加えて6ヵ月物を新設することを決定した。同日、政府も新卒者雇用の支援、エコポイントの延長などを盛り込んだ経済対策の基本方針を発表した。財源は2010年度当初予算で計上した経済危機対応・地域活性化予備費の残額約9200億円である。
日銀、政府の対策とも市場が事前に想定した範囲を超えるものではなく、市場は失望する。円の対ドルレートは8月27日に85円台を回復したが、30日には再び85円を割り込んだ。日経平均株価は、30日こそ9000円台を回復したものの、翌31日には円高を嫌気し、前日比325円20銭安の8824円06銭と年初来安値を更新した。
バーナンキFRB(米連邦準備制度理事会)議長は27日、デフレリスクの高まりに対しては追加の金融緩和措置を取ることを示唆した。それに対して、日銀は事前に想定された以外の方策、つまり政策金利の引き下げなどを打ち出すことをしなかった。市場は先手を取って動くFRB、後手に回る日銀と見なしている。これも円高ドル安の一因である。
今後も円高の基調は崩れそうにない。現在の対ドルレートは米国経済の動向によって決まる。4~6月期のGDP成長率は前期比2.7%と1~3月期(同3.4%)に比べ減速した。7月以降も指標を見る限り、減速傾向が続きそうだ。
7月の新築住宅販売は前月比12.7%減の27.6万戸となり、1963年の調査開始以来の最低水準を更新した。同じく7月の中古住宅販売も前月比27.1%減の337万戸と3ヵ月連続のマイナスとなった。
非農業者部門の雇用者数は6月、7月と2ヵ月連続で減少した。加えて、8月下旬時点で、雇用者数増減の先行指標となる失業保険申請件数の4週連続平均の水準は昨年11月下旬以来の高い水準となっている。雇用が停滞していてはさらなる景気減速は避けられない。
景気減速を受けて、「米国の金利が低下すれば円高ドル安がさらに進む」(田中泰輔・野村證券外国為替ストラテジスト)ことになる。そして、日本株には円高と世界経済減速でリスク回避志向が高まった投資家の売り圧力がのしかかる。
円高がじわじわ進行するなか、1ドル=82円前後にまで円が上昇すれば、米国も日本による円売り単独介入を黙認するのではとの見方も出てきた。しかし、単独介入ではやはり効果に限界がある。さらなる円高の進行を抑えることはできても、反転させることは難しい。米国経済が回復基調に復するまで円高株安を甘受するしかない。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 竹田孝洋)