団塊世代の退職や若年世代の人口減少によって、人手不足が顕在化している。それを補う1つの方策がシニアの活用。しかし、安部修仁・吉野家会長は「世の中のシニア活用議論は実に荒っぽい」と指摘する。(構成/フリージャーナリスト 室谷明津子)
人手不足を機に
組織のあり方を考え直す
ここ数年で、国内事業者の人手不足が顕在化しています。団塊世代の退職と、求職者世代の人口減少が同時に起きていることが原因です。アベノミクスで景気が上向きになったことも、関係しています。今年の春には有効求人倍率が24年ぶりの高水準に達し、新卒採用が完全に「売り手市場」になっていることは、前々回(記事はこちら)話題にした通りです。
外食産業においても、正社員とともにパート・アルバイトをいかに確保するかは、重要な課題になっています。外食産業もすでに成熟産業で、需給バランスでいえばオーバーサプライ状態。企業の淘汰が進む中で、優秀なマネジメント層や、現場の店舗をしっかり動かせる人材をいかに雇用し、定着率を上げていくか。そのために労働条件の向上や、教育にコストをかけられるかどうかは、企業の死活問題となっていくでしょう。
同時に、日本企業が組織のあり方そのものをゼロベースで考え直す時期が来ているのではないでしょうか。
高度成長の時代には、経済全体のパイが年々大きくなるので、企業は業績を上げやすい。毎年新卒採用を行って年功序列で給与を上げていっても、定年まで面倒を見る余裕がありました。しかし経済成長を終えた成熟社会では、決まった大きさのパイを取り合うことになるので、勝ち負けがはっきりと結果に出る。最近では大企業であっても、戦略を誤って業績不振に陥り、大量にレイオフをするニュースが世間を騒がせています。
私は個人的には、レイオフは日本人の道徳観に合わないと思っています。会社の経済的合理性でもって、業績の低下をレイオフで補いながら利益を上げるというやり方は、企業へのロイヤリティーが高い日本人にはなかなか受け入れられないでしょう。
しかし、そうはいっても結果を出せない企業がヘビーな組織を維持するのは大変です。また、現代のようなITネットワークや物流が発達した社会では、すべて自前で抱える必要もないのかもしれません。
組織を重くし過ぎず、いかに外部とのネットワークを築きながら、コア人材を育てていくか。人手不足を機に、組織づくりの発想を転換するときが来ているのだと思います。