もう1つ実際の民法を通じて、民法が考える正義や公平をさぐる方法を紹介しましょう。法律用語に馴染みのない人でも、一般的な「担保」という言葉ならイメージしやすいでしょうか。質権(代表的なのが質屋さんに物を預けてお金を借りるケース)と抵当権(代表的なのが住宅ローンで不動産を担保にお金を借りるケース)。この2つでの利息の取り扱いの違いです。小さな違いに思うかもしれませんが、ここには民法の考える公平が潜んでいます。

 質権や抵当権はよく利用されるものです。いわゆる担保なので、どちらの場合でも、貸したお金が返ってこなかったら、貸主は質や抵当にとったものを売ってお金を回収できます。たとえ、お金を借りた人に、ほかの債権者がいたとしても(ほかからも借金をしていたとしても)、質権や抵当権を持っていると、質や抵当を売ったお金からは優先的にお金が回収できるのでお金を貸した人は安心です。

 役割が似ている質権と抵当権ですが、大きく違う点があります。それは、質では、質になるものを預けなければならないということです。そして、お金の貸し手は、質になるものを手元にとどめおきます。これを留置的効力といいます。

 一方、抵当権の場合には、いままでどおり使っている状態で抵当権がつけられます。抵当権には留置的効力がないのです。

 わかりやすく説明するなら、質屋さんで借金する場合は腕時計や宝石とかを質屋に預けます。当然、お金を借りている期間、つまり質屋が保管しているあいだは、お金を借りた人はそれらを使えません。しかし、自宅を担保に住宅ローンを借りている場合、借りているあいだに銀行は自宅を取り上げません。借りた人は自宅を使いつつ、お金を借りられます。

 長々と説明してしまいましたが、ここでお話ししたいのが、生じた利息の取り扱いの違いです。つまり、貸したお金の利息まで、その質や抵当にとったものを売ったお金から優先的に回収できるかどうかという問題です。

 結論から先にいうと、抵当権では利息の一部だけ(民法375条1項)ですが、質権では、原則として、すべての利息が回収できると規定されています(民法346条)。

担保にとったものを
使えるか否か

 もちろん、その違いには理由があります。というのは、質物は他人のものを預かっているわけです。質にとっている人は使うわけにもいかず、むしろ管理費がかかる状態です。だから、この利息を管理費と同額と見立てて、すべての利息までその質物を売ったお金から回収することを認めたのです。一方の抵当権では、こうした意味での「利息」まで必要ありません。

 ところが、質権でも不動産質という特別の質権の場合には事情が異なります。不動産を相手に預けてしまって質物とするものですが、不動産質では、その質物(不動産)を使うことを認めています(民法356条)。しかも、利息も請求できないのです。

 同じ質権なのに、この違いはなぜ認められるのでしょうか。それは、不動産は使わないと不動産が荒れてしまうからです。そして、質物(この場合は不動産)を使っている場合には、使っている利益があるわけですから、不動産の質権者は利息を請求できないものとしました(民法358条)。

 不動産以外の質は利息まで担保されますが、不動産質の場合には利息は請求できないとされているのは、こんな緻密に配慮された理由があったのです。

 法律を学ぶ意義は、リーガルマインドを養成することにあります。その意味でいうと、民法を学ぶ意義は、誰もが納得するそのルールを学ぶことによって、日常生活におけるリーガルマインドを養成することにあるといえます。民法が大学や資格試験で重要視されるのは、そんなところに理由があります。