トランプ氏の極論で思い出す
日米自動車摩擦の厳しい歴史

 米国における自動車はかつて「聖域」でもあり、政治とのつながりの中で日米自動車摩擦、日本車対米輸出自主規制が長きに渡って続いた。日本車バッシングなどもあり、日本自動車産業が米国で市民権を得るまでには厳しい道のりがあった。日本の自動車業界のトップからは、「今回の米大統領選でトランプ大統領が誕生したら、いつか来た道になるのでは?」と懸念する声も聞こえてくる。

 トランプ氏は冒頭の発言の他にも、「日本の度重なる円安誘導のせいで、友達は高いキャタピラーではなく、コマツのトラクターを購入した。アメリカは日本と価格競争ができない。円安誘導で競争は不可能だ」と発言している。不可解で支離滅裂な発言だが、コマツとキャタピラーという建設車両メーカーの固有名詞を出して、被害者意識を煽っている。

 また、「日本は石油の7割近くを湾岸地域に依存しているが、その活動は米軍が守っている。日本は米軍に守られて石油を持ち帰り、アメリカの自動車メーカーを叩きのめしているのだ」とし、「だから自動車(輸出)を使って経済大国になった日本に補助金(米軍駐留経費)を払い続けることはできない」と、日米安保問題にまで言及していく。

 さらにTPPに関しても、日米など12ヵ国で大筋合意されている同協定について、トランプ氏は破棄を訴える。「貿易自由化で日本やメキシコに雇用を奪われた」と主張し、経済格差に不満を募らせる低中所得層の取り込みに成功してきた。「日本から何百万台ものクルマがひっきりなしに輸入されてくる。アメリカは何を買わせたか。貿易不均衡だ」と言ったと思えば、「メキシコに万里の長城をつくる。我々は日本を、メキシコを打ち負かす」とまで言う。支離滅裂、荒唐無稽だが、ここまで来るとその発言を「ある意味、面白い」と評価する風潮さえある。

 メキシコに関しての攻撃は、メキシコからの移民の流入と、NAFTA(北米自由貿易協定)でメキシコが自動車の生産基地化されたことにより、米国の雇用が奪われたとするものである。しかし、メキシコにはフォードも生産展開してNAFTAを活用しており、トランプ氏はフォードとも確執を抱える関係にあるのだ。

 米大統領候補であるトランプ氏の発言は無茶苦茶に聞こえるが、米国にとって自動車が聖域であることに変わりはないということだろう。かつて日米自動車摩擦が起きたのは、1970年代後半からだった。この頃、米国から日本車の「集中豪雨的対米輸出」という非難の声が巻き起こった。