なぜ、この問題を「追求すべき」と思えたのか?

「自分の家を宿泊施設として使う」のがビジネスアイデアになることに当時気づいている人はほかにいなかった。これを「追求する価値がある」と思えたのは、二人がこの問題の両サイド(貸す側と借りる側)を経験していたからという側面もある、とゲビアは話してくれた。

「泊まれる場所がなくて町にやってくるとはどういうことか、そして貸したいスペースがあるとはどういうことか。私たちはそのどちらの事情もよくわかっていました。そこでこの二つの点をつないだのです。いまから振り返ると、これはじつに理に適っていたのですが、当時はだれもそんなことをしたことはありませんでした」

 ゲビアとチェスキーは、成功を導いた質問家に共通する一種の「反抗的」な態度を持っていた。

 ある問題を見て、なぜそこに問題が存在しているのかに疑問を抱き、もしかするともっと優れた選択肢があるのではないかと考えることまではできるかもしれない。しかし、「この状況は変わりません。物事がこうなっているのにはそれなりの理由があるのですから」と専門家から言われた後も同じ疑問を抱き続けるのはなかなかできることではない。

 ゲビアとチェスキーは、彼らの最初の疑問(「最初のサービス経験をビジネスに広げるべきかどうか?」)を問い続けて当初に外部から示された抵抗を乗り越えなければならなかった。

 そしてそれぞれの過程で新たな疑問を抱いては解決に向けてどんどん進んでいった。彼らは考えた。「このアイデアを他の都市で試してみたらどうなるだろう?」

 2008年、デンバーで行われた大統領選挙の民主党大会で、ビジネスアイデアを実行に移す恰好の機会を見つけた。大勢の人が町にやって来るのだが、十分なホテルがなかったのだ。「でも、どうすれば訪問者や、貸せる場所を持った人たちにエアビーアンドビーの存在を知ってもらえるだろう?」

 ゲビアとチェスキーには広告を出すだけの資金がなかった。そこで彼らのビジネスをニュースに仕立てることにした。二人の創業者は、ニュースメディアがデンバーの混雑ぶりとホテルが予約でいっぱいであることを話題として取り上げることを知っていた。そこで、エアビーアンドビーを「一つの解決案」としてプロデューサーに売り込み、CNNで紹介してもらった。その結果、予約が入るようになり、デンバーでの初めてのビジネスが成功した。

 とはいえ、その後もビジネスモデルについてさまざまな問いを発し、何度も試し、磨きをかけ、ようやく満足なものができあがるまでには一年かかったとゲビアは言う。実際にウェブサイトを使い、泊まりに行き、「何がうまくいき、何がうまくいかないのか?」を考え続けたのだ。

 たとえばお金を支払う段になると、宿泊者とアパートの住人との関係が気まずくなることに気づいた。「とてもくつろいで楽しいときを過ごしていたのが、支払いのときになると雰囲気がガラッと変わる、というような」とゲビアは当時を振り返る。その経験から次の疑問が生まれた。「オンラインで支払うことにしたらどうだろう?」

 ウェブサイトへの訪問者の多くから外国の都市について尋ねられたときは、次のように考えた。「なぜ僕たちのサービスをアメリカに限定する必要があるのだろう?」「グローバル展開したらどうだろう?」。その後二年もたたないうちに、二人のサービスは100以上の国に広がり、予約件数は100万に達し、彼らへの投資金額は1億ドルを超えた。投資家の中には、最初はこのビジネスに疑問を抱いていたYコンビネータのポール・グラハムもいた。グラハムはシード投資家の一人になった。