中国勢の存在感が急速に高まっている液晶業界。政府の資金援助によって相次いで巨大工場を立ち上げるその猛攻に、日台韓のメーカーはどう立ち向かっていくのか。
中国・上海市から、西に約500キロメートルの内陸に位置する安徽省合肥市。魏軍の武将・張遼が呉軍の孫権を追い込んだ「三国志」の舞台として有名で、三菱電機や日立建機など日系企業が数多く進出する都市に今、世界最大の液晶工場の建設が進む。
運営主体は、中国の液晶パネルメーカー最大手、京東方科技集団(BOE)。10.5世代(2.94メートル×3.37メートル)と呼ばれる、畳5畳分に及ぶ巨大なガラス基板を扱う、同社の威信を懸けた工場だ。
400億元(約6500億円)もの資金をつぎ込むその一大基地は、最大で月12万枚のガラス基板を投入する生産能力があるといい、65型の液晶パネル換算で年間800万枚以上にも及ぶ。
BOEはすでに、合肥のほか北京、重慶に8.5世代の工場を三つも展開している(下図参照)。2017年には成都に6世代の工場を、福州に8.5世代の工場を稼働させる予定で、そのすさまじい設備投資力を前にして、日台韓はじめどのパネルメーカーも、ひれ伏すような状態にある。
さらに、日韓勢が投資方針を、液晶から有機ELへと大きくかじを切ったとみるや、BOEも今年2月、有機ELパネル(フレキシブル型)の量産化をにらみ、6世代の成都工場に245億元(約4000億円)もの投資をすると表明。こうした業界全体の潮目の変化すらも、圧倒的な資金力を武器に一笑に付すような姿には、今後業界の覇権を握る“王者”の風格すら漂い始めている。
周囲から漏れる過剰投資との声に対しても、「中長期のテレビのインチ数の拡大を考えれば、今後工場は絶対的に足りなくなる」(久保島力副総裁)と、意に介さない。
一方で、BOEは年間の連結売上高が約8000億円と、シャープのディスプレイ部門と同程度の規模の企業でしかない。にもかかわらず、矢継ぎ早に計1兆円を超える投資を決められるのは、日本では考えられないほど、政府の強力なバックアップがあるからだ。
11年、中国政府は成長戦略となる第12次五カ年計画の中で、液晶を「戦略的新興産業」に位置付け、企業の工場建設を資金面で大きく下支えしてきた。
先述した合肥の10.5世代工場も、設備投資に拠出する「自己資金は1割」(外資系証券アナリスト)といい、残りは地元政府の出資と政府保証の付いた銀行借り入れとされている。