携帯電話の王者は、かつての栄光を取り戻すことができるのか。ここシリコンバレーは今、フィンランドの携帯電話メーカー、ノキアの動向を注意深く見守っている。
ノキアが世界の携帯電話市場を席巻したのは、10年以上前のこと。重工業から出発した北欧の伝統的企業が、現代のコミュニケーション機器である携帯電話市場に彗星の如く現われ、人びとの話題をさらった。次々と発表される新製品に、消費者は飛びついたのだった。
しかし、栄華は長続きしなかった。世界の携帯電話販売台数では今でも38%と、世界トップシェアを維持しているが、移動体通信市場を牽引する米国市場ではシェアはわずか8%。特にアンドロイド携帯やアップルのiPhoneが人々の関心を独占しているスマートフォン市場では、ノキアの存在感はさっぱり感じられないと言ってもいい。
そのノキアが最近、経営トップ刷新を断行した。
第一に、ノキア復権のために、マイクロソフトのビジネスソフトウェア部門を率いてきたステファン・エロップ氏をCEOに招聘した。
じつはノキアがフィンランド人以外のトップを雇い入れるのはこれが初めてのことだ。エロップ氏は、マイクロソフト以前にも通信機器メーカーのジュニパー・ネットワークスや、アドビに買収されたマクロメディアで経営幹部を務めていた経験を持つ。ハードウェアとソフトウェアの双方に関する豊富な知識が評価された、と関係者は口をそろえる。いずれにせよ、米国市場での巻き返しへの意気込み、そして何より携帯電話市場における過去の成功体験から変化を嫌うようになった企業体質の抜本的刷新に賭ける決意が伝わってくる。
経営トップ刷新の第二のポイントは、スマートフォン担当トップ(上級副社長)のアンシ・ヴァンヨキ氏の辞任だ。同氏は現在、ノキア製品のOSとなっているシンビアンを推進してきた中心人物である。
業界内では、ヴァンヨキ氏の退任はノキアが今後マイクロソフトと提携したり、グーグルのアンドロイドOSを利用したりするための下準備ではないかとの見方が強い。アンドロイド携帯は現在、スマートフォン市場でアップルのiPhoneをはるかに上回る勢いで伸びている。その陣営に合流する可能性が高いと見られているのだ。