「いい努力」の7つの条件

 そのためにまずは、「いい努力」とはどんなものかを知ることから始める必要がある。

「いい努力」とは何か、整理すると7つのポイントがあげられる。

(1)「成果」につながるもの

 3年間、雨の日も風の日も、手塩にかけてリンゴの木を育てたが、一つも実らなかった──。これは「いい努力」ではない。

「いい努力」とは、その努力をした結果、成果が出るもの。リンゴの木を育てるなら、リンゴを実らせるのがいい努力だ。

「水まきが大切だ」といって1日10回水をまいても、それで根が腐ってしまったら「いい努力」とはならない。何もしないほうがまし、となる。もっと厳しく言えば、ほんの数個しか実らない場合も、労力と時間に見合わない「悪い努力」である。

(2)「目的」が明確なもの

 成果とは結果であり、すぐに出るものではない。何をすれば成果につながるか、100%はわからないのが当たり前だ。その状態で努力をするのだから、大切なのは一番先に目的を意識し、明確にすることだ。これはすなわち、目指す成果がどんなものであるかを明確にすることでもある。

 つまり「いい努力」とは、目的が明確なものだ。「自分は何のために努力をするのか?」と、つねに考える必要がある。

 ビジネスの場合、長期的な目的と短期的な目的が入り混じっていることが多い。だが、人には結果を急ぐ心理があり、「目の前の目的」に照準を合わせやすい。だから重要度にかかわらず、短期的な成果の追求に目が行ってしまうことが多い。

 最終的な目的への意識が曖昧なまま目先の目的だけに気を取られて走っていると、やがて「悪い努力」にぶれていくことになる。「日本一のリンゴ農家になる」という目的のはずが、短期的に結果が出やすいからといって大量の化学肥料で土を痩せさせたりしたら、本当の目的からは遠ざかることになる。目的を見誤った努力は「悪い努力」だ。

(3)「時間軸」を的確に意識しているもの

 目的がはっきりしていても、「いつまでに」が漠然としていたら意味がない。

「5年後に県内ナンバーワンのリンゴ農家になる」ことが目的か、「来年、リンゴを100個つくる」ことが目的かで、努力のやり方は変わってくる。目的を達成する時間軸を的確に捉えていない努力は「いい努力」とは言えないだろう。

(4)「生産性」が高いもの

「成果が出ることは出るが、そのためには膨大な時間と労力を要する」という努力も、決して「いい努力」とは言えない。同じ成果を導けるのであれば、かかる時間やコストは小さいほうが望ましい。より短い時間と小さな労力で高い成果を出せるほうが、よりいい努力と言える。

 ただし、これは効率至上主義を勧めるものではない。効率と生産性は似て非なるものだ。生まれる成果が同じものであれば「効率=生産性」となるが、思考や創造力がかかわる仕事の場合、効率を追求しすぎると、成果の質が落ち、結果として生産性が低くなりがちだ。

(5)「充実感」を伴うもの

「いい努力」をしている最中は、フラストレーションや挫折感を感じることが少ない。逆に言うと、「悪い努力」の場合、やってもムダなことをしたり、本当は必要のない障害を乗り越えるためにエネルギーを費やしたり、進んでいった道が行き止まりで戻るはめになったりするので、ある程度精神力のある人でもネガティブな感情が生じてしまう。

「いい努力」には、余計な動きが少ない。ムダなことに振り回されることなく、手応えを感じながら進んでいる状態になる。

「いい感じで働いているな」

「仕事の中身が濃くなってきたな」

 このように、まだ成果が見えていない段階でも、高揚感、充実感が生まれてくる。「いい努力」をすればするほど充実して意欲が増し、いっそう「いい努力」ができるようになる。

(6)「成功パターン」が得られるもの

「いい努力」を続けていると、「高い成果を出すには、このパターンの努力がいい」ということが、自然にわかってくる。

 野球にたとえると、ヒットが出る・出ないは確実には予測できないことだが、コーチに教わって「肘を締めて打ったほうがヒットになる確率が高い」という成功パターンがわかれば、そのフォームを磨くことによって成果を出す確率を高められる。経験から「腰を落として打ったほうがヒットする確率が高い」という成功パターンもわかってくれば、成果を出せる確率はさらに高まるだろう。

「いい努力」をすればするほど、その蓄積によってたくさんの成功パターンを会得でき、さらにいい努力ができるようになっていく。自分自身の経験のほかに、うまくいっている人から学んで真似ることによって成功パターンを増やしていくことも必要だ。

(7)「成長」を伴うもの

 生産性が高く、高い成果が出るというだけで十分に「いい努力」であるが、「いい努力」のあとには、「成長」といううれしい副産物がついてくる。

 明確な目的に向かって、期限を意識し、生産性を高める「いい努力」をすれば、自分自身もまわりの環境も進化、成長する。「いい努力」をする人は、試行錯誤しながら成果に結びつくパターンをつかんでいけるし、まわりの環境がその人の働きかけによって変わっていく。成長した人が進化した環境で働けば、次はさらに高い成果を出すことができる。

 1年間でリンゴを5万個つくるパターンをつかんだ人が、そのパターンを使ってさらに「いい努力」をすれば、翌年には7万個生産できるようになっていくという話である。