英語メディアが伝える「JAPAN」をご紹介するこのコラム、今週は小沢一郎・元民主党代表に対する「起訴議決」についてです。複数の英語メディアは「政治的打撃だが、有罪はないだろう」と書いています。だからでは決してありませんが、この議決になんとなく釈然としない思いを、私は抱いています。検察の判断も、検察審査会の議決も、議論プロセスが外からは見えず、結論だけがポーンと発表されるからです。そもそもは検察が「市民の代表」であるはずなのに、そう機能しないから、信頼が地に堕ちてしまっているから、検察審査会をよりどころにしたい気持ちは分かるのですが。プロ集団の検察が信頼できないから、市民集団の検察審査会に頼るしかない状態におかれた私たちは、実はすごく不幸なのだと思えてしまいます。(gooニュース 加藤祐子)

有罪はないだろうと

 小沢一郎・元民主党代表の資金管理団体「陸山会」の土地取引事件について、「市民の代表」たる東京第5検察審査会が10月4日、小沢氏を政治資金規正法違反(虚偽記載)の罪で強制的に起訴すべきだとする「起訴議決」を公表しました。事件の内容は日本のメディアに譲るとして、主要な英語メディアも各紙が「小沢氏を起訴へ」と詳しく伝えています。

 英『フィナンシャル・タイムズ』のミュア・ディッキー東京支局長はまず、「政治資金事件で小沢起訴へ(Ozawa to be charged over funding dispute)」という見出し記事を掲載しました(英語メディアが記事で人の敬称や肩書きを略して呼び捨てにするのはいつものことで、そのこと自体に特に意味はありません)。

 記事は「日本与党の重鎮(ruling party heavyweight)、小沢一郎の政治的未来が問われることとなった」とした上で、「過去四半世紀の日本政治でもっとも影響力をもつ政治家のひとり」の小沢氏が法廷に立つことになれば、政権与党として1年間苦しんだ挙げ句になんとか勢いを取り戻そうと苦労している民主党にとって、新たな不安定化要因となると論評しています。

 小沢氏の起訴によって、党代表としての菅直人氏の力は強まるかも知れないが、「民主党内の緊張関係を悪化させるだろう」し、ただでさえ尖閣諸島をめぐる対中外交で支持率を下げている菅内閣の人気をさらに下げる要因にもなり得ると。

 ディッキー記者はこの記事とは別に、「民主党の将軍、権力への挑戦に直面(DPJ shogun faces threat to power)」という、より修辞的というか煽り気味の見出しで解説を書いています。いわく、「法廷でのやりとりがいかに苦しいものになり得るか、小沢一郎は知っている。日本与党の重鎮は、かつて何年もかかった故・田中角栄元首相の公判全191回にすべて出席したことで有名だからだ。しかし今回、被告席に立つことになりそうなのは、小沢氏自身だ」と。

 記事は、田中元首相がロッキード事件で受託収賄罪で有罪となった後でも議員の座と自民党内の派閥政治に圧倒的な力を持ち続けたことに触れながら、「小沢氏にかけられている虚偽記載の容疑はそれに比べるとはるかに軽いものだが、小沢氏が政治的影響力を維持できるかどうかは、党内の小沢支持者たち次第だ。かつての小沢氏が自分の師匠を支え続けたように、彼らが小沢氏を支えてくれるかどうかだ」と書き、<そうはいかないんじゃないか>というニュアンスを匂わせています。

 その一方で、「無実を主張し続ける小沢氏は、復活するかもしれない。日本の法廷が被告人を無罪にすることはめったにないが、一般市民から構成される日本の新しい訴追組織(訳注・検察審査会のこと)による『強制起訴』で、政治家が起訴されるのは今回が初めてのことだ。ということはつまり「小沢氏に対する事件は、裁判所が選任する資金の乏しい弁護士たちが担当することになる。有罪判決が見込めるほどの証拠は足りないと2度判断した、エリート検事たちではなく」と書くディッキー記者は、「多くの専門家は、有罪判決はありえないと考えている」と指摘しています。

 豪『オーストラリアン』ではリック・ワラス東京特派員が、「日本政治の闇将軍、小沢一郎が詐欺裁判の法廷へ」という見出しで、「一般市民からなる委員会」と検察審査会を解説。「闇将軍(shadow shogun)として知られる小沢氏は、保釈されるだろう。しかし議会や民主党から、辞任要求が出ることが予想される」と書いた上で、「辞任すべきだという議論が、党内外から出るだろう」が「有罪が立証されるまでは無罪(innocent until proven guilty)なのだから辞任は必要ないと擁護する声もでるだろう。おそらく(小沢氏は)無罪となるはずだと思う」という中野晃一・上智大学准教授のコメントを紹介しています。

記事の行間ににじむ言葉にならないニュアンス

 米『ニューヨーク・タイムズ』のマーティン・ファクラー東京特派員は、「日本の審査会、疑惑にまみれた政治首領の起訴を後押し」という見出し記事で、小沢氏への打撃や民主党分裂の危機などを解説。「民主党の陰の実力者」小沢氏が、被告人として「法廷に立ち」恥ずかしい思いをする可能性が出てきたと。

 尖閣諸島をめぐる対中外交姿勢で菅首相が批判される中、「小沢氏が再度、菅氏に挑戦するのではないか。時機をうかがっているのではないかと取りざたされていた」だけに、この展開は新たな「政治的打撃(political blow)」だと。

 ファクラー記者は、日本では周知の事実関係を英語読者に淡々と説明しているのですが、上述のように「小沢再来」の可能性を取り上げたり、また代表選では小沢氏が「民主党の政策目標(アジェンダ)を実現するために必要な指導力をもつのは、自分だけだと、熱弁していた」と書いたり、さらには「民主党の歴史的な勝利を実現させたのは小沢氏の手腕のおかげだと、広く言われている」とも指摘。<これほどの人を…>という言葉にならないニュアンスを行間に私は感じました。

 というのもファクラー記者は以前こちらでもご紹介したように、民主党代表選の直前に「そういう小沢氏こそ日本が必要としている実力者なのではないだろうかという意見もある」と持って回った調子で書いていたので。それだけに、小沢一郎という政治家の浮沈に対して一定の思いが込められているように、こちらは勝手に受け止めました。

 米『ワシントン・ポスト』ではチコ・ハーラン特派員が、「政治資金をめぐる疑いで日本の代議士起訴」という(若干、勇み足な)見出しで、小沢氏を「polarizing」と表現。これは、直訳すれば「pole(=極)に分けるもの」という意味で、世論を分断する、議論を分断する、党を分断する、あるいは毀誉褒貶の激しい――などの意味になります。好きか嫌いかがはっきしている人、という意味にも。

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