叱る前に「ほめる」と、
相手は自信を失わない
私がレッスンを受けているヴォイス・トレーニングの野口先生は、私が間違った声を出しても、「できていない!」と頭ごなしに否定することはありません。
「松澤さん、そのチャレンジはいいですよ。方向性は間違ってはいないですよ!」
と最初に、私をポジティブに肯定してくれます。
そして、ポジティブな言葉で私の心を開いたあとで、「ここができていなかったので、こういうふうにすると、もっと良くなりますよ」と(ネガティブな)指摘をする。
さらに、最後にもう一度、「大丈夫、松澤さんならできますよ!」とポジティブな言葉で後押ししてくれます。
先生は、私に嫌な思いをさせないように、工夫をしながら指導をしています。
「ポジティブ→ネガティブ→ポジティブ」の順番でアプローチしてくださるので、私は自信を失うことなく先生の指摘を受け入れ、レッスンに励むことができるのです。
野口先生のように、「悪い点」を自覚させるために、前後に「良い点」をはさむ手法を、私は、「PNPコミュニケーション」と呼んでいます。
(1)良い点をほめる。過程に感謝する。相手を承認する(ポジティブ/Positive)
例:「頑張っていますね」「いつも、ありがとう」
(2)悪い点や改善点を指摘する(ネガティブ/Negative)
例:「○○○すると、さらに良くなると思います」
(3)良い点をほめる。応援する。安心させる(ポジティブ/Positive)
例:「期待しています」「○○さんなら大丈夫」「これからも一緒に頑張ろう」「いつも感謝しています」
「PNPコミュニケーション」で伝えると、「相手の気持ちを尊重しつつ、問題点を明らかにする」ことができるのです。
CA(客室乗務員)の友人が、国際線移行訓練を受けていたとき、教官から、「あなたはサラダを盛り付けることもできないのか?これではどっちが正面なのかわからない」と注意されたことがありました。
友人は「主婦を15年もしてきたのに、私はサラダを盛り付けることもできなかった」と自信をなくし、とても落ち込んだそうです。
教官の言うことは、もちろん正しいのですが、論理的に正しくても、感情的に正しいとはかぎりません。
仮に教官が「PNPコミュニケーション」を使っていたら、友人は、そこまで自信を失うことはなかったはずです。
(1)「さすがに主婦をしているだけあって、美味しそうに盛り付けているね」(ポジティブ)
(2)でも、これだと、ちょっと、どちらが正面かわかりにくいと思う。こうやって盛り付けたら、もっと見栄えが良くなるよ」(ネガティブ)
(3)「その調子で、これからも頑張ってね!」(ポジティブ)
人に注意を与える場合、その前後を「ポジティブな言葉」で挟まないと、ネガティブな言葉だけが剥き出しのトゲのようになって、相手の自尊心を傷つけ、やる気を奪ってしまう可能性があります。
ですが、最初に「P(ポジティブ)」があれば、相手の言葉を受け入れる「心の窓」が開くので、意欲を失うことはありません。
相手の欠点や間違いが目についたときこそ、まず、相手をほめてみませんか?
そうすれば相手は自信を損なうことなく、あなたの言葉を前向きにとらえるはずです。