Low hanging fruitsを狙え
西内 やはり教育にうまくデータが活用されたときの効果はすごいですね。他の企業にも教育市場でのデータ活用の事例があるのではないでしょうか。
中室 ええ。最近は、教育市場にもビジネスチャンスがあると考え、参入してくる企業が増えています。私の研究室にも、教育産業への参入を考える企業の方の訪問が後を絶ちません。政府はデータの公開に消極的ですが、民間企業はデータの分析を行うために大学の研究者の力を借りたいと思っているのでしょう。
西内 学習者それぞれが、小問単位で正答か、誤答か、誤答の中でもどのような誤答か、といったデータを集積していくとそれも立派なビッグデータと言えそうですね。企業側はビジネスチャンスに影響してくるので、データも素早く出してくると期待できます。もしかすると、こちらのほうが「全国学力・学習状況調査」の開示よりも早いかもしれませんね。
中室 教育機関が持つ学習ログデータを分析すれば、これまでわからなかったことがわかるようになる可能性はあると思っています。その分析結果が具体的に学校現場に有用な知見として返していくことができれば、政府の統計に対しても「公表までに何年もかかる状態を改善していかなければ……」と改善のためのプレッシャーをかけることにもつながるでしょう。
西内 私のクライアントに大手の英会話スクールがありますが、どんな教材を使ってどんな先生にどれだけ授業を受けたか、とか、どんな自習用教材を買ってどんなフィードバックを受けたか、とかいうデータに加えて、TOEICやCASEC(キャセック)のスコアも時系列で蓄積されているので、それらを活かして「どうすれば英語力が上がるのか」という分析を現在やっています。これって本来なら文部科学省がやるべき仕事だと思うんですが、この会社でノウハウを溜めて、公教育側に活かしていった方が展開は早いかもしれない、と。やっぱりビジネスで進めるほうが早いんです。マーケティングの大家であるフィリップ・コトラーも、手っ取り早く世の中を変えるためには、「Low hanging fruits(低いところに成る果実)を狙え」って書いてるんですよ。大きな目標を掲げるにしても、まずは今始められるところから着手していこう、そのうちに高いところにあるフルーツも熟すよ、という考え方ですね。
(記事転載元/ダイヤモンド社書籍オンライン 2015年02月20日掲載「『統計学が最強の学問である[実践編]』発刊記念対談」第7回)
・第1回 「35人学級問題」をめぐる財務省と文科省のエビデンス無き議論
・第2回 “思い込み”の政策が「ゆとり世代」のような不平等をつくり出す
・第3回 「学テ」の結果も活用できないデータ“公開”後進国、日本