2018年5月25日、ついに施行された「GDPR(一般データ保護規則)」。ヨーロッパ市民に関する個人情報を扱うすべての企業(ほかの大陸の企業を含む)に適用されるこの法律は、いったいビジネスにどのような影響を及ぼすのか。メディア論の泰斗にしてGDPRの震源地ベルリンで取材・分析を続ける武邑光裕氏によると、いまネットで栄えているビジネスモデル=広告は「死」を迎えるという。GDPRの本質からネットの未来まで、縦横無尽に論じた武邑氏の15年ぶりの新著『さよなら、インターネット』より、個人データをお金に換えるシリコンバレー流の「データ錬金術」の未来をご紹介しよう。(Illustration:Summer House)

フェイスブックは私たちの「何」を搾取したのか?<br />――2.GDPRと「ネット広告の死」

フェイスブックの中の広告

 フェイスブックはデータを広告主に販売せずにどのようにして収益をあげるのか?

 フェイスブックは2017年度に400億ドル(約4.2兆円)の広告収入を得た。グローバルなデジタル広告市場シェアで、グーグルに次いで2番目である。フェイスブックは、あなたの年齢や居住地など、あなたが提供したデータを使用し、それを携帯電話の位置情報や嗜好分析と組み合わせて特定のユーザーに広告を“フィット”させる。

 フェイスブックは、ユーザーのニーズがより具体的に判明すれば、より多くの金額を広告主に請求することができる。パワフルなユーザー選択ツールを使用することで、広告主が望む潜在顧客をターゲットにすることができる。

 広告主は、彼らが標的にするユーザーのタイプを選択する。フェイスブックは広告を表示するユーザーを選択するために、フェイスブックが持つ個人データを用いて、内部的な適合作業を行う。この場合、確かにフェイスブックはデータ自体を広告主に販売してはいない。それはフェイスブック内部で行われているためだ。しかし、あなたのデータがなければ、フェイスブックはターゲットを絞った広告を広告主に提供することはできない

 通常、わたしたちの個人データがフェイスブックから流出することはないと思われてきた。最新のプライバシー・スキャンダルは、トランプ陣営が提携したコンサルティング会社ケンブリッジ・アナリティカの内部告発からはじまった。研究ツールに偽装したアプリを通じて、何千万人ものフェイスブック・ユーザーの個人データが流出した。フェイスブックはアプリにもデータは販売しない。アプリが、フェイスブックの個人データを吸い取ったのだ