アップルが「オールドパワー」の権化と言われる理由

20世紀は、大手企業や政府などが権力を持つ「オールドパワー」の時代だったが、テクノロジーの発展の結果、いまや大組織がパワーを溜めこむことは不可能となった。21世紀は、個人でも際限なく大きな権力や影響力を持てる「ニューパワー」の時代だ。あなたは「ニューパワー」の側の人間だろうか、それとも「オールドパワー」だろうか――?
世界に起こっているそうしたパワーの変化とその影響を鮮やかに読み解き、米ニューヨーク・タイムズ紙、英フィナンシャル・タイムズ紙など各国メディアで絶賛されている書籍が『NEW POWER これからの世界の『新しい力』を手に入れろ』だ。
著者は、ハーバード大、マッキンゼー、オックスフォード大などを経て、現在はニューヨークから世界中に21世紀型ムーブメントを展開しているジェレミー・ハイマンズと、約100ヵ国を巻き込み、1億ドル以上の資金収集に成功したムーブメントの仕掛け人であり、スタンフォード大でも活躍するヘンリー・ティムズ。
本書ではこれからの時代におけるパワーのつかみ方、権力や影響力の生み方、使い方について、まったく新しい考え方を紹介している。本記事では、その刊行を記念して一部を特別公開したい。

ニューパワーの組織、オールドパワーの組織とは?

 ニューパワー・モデルの企業や組織でも、ニューパワー的な「価値観」を必ずしも大切にしているとは限らない(「ニューパワー」とは、シェアやコラボレーション、透明性などを重視する新しい「パワー」のこと。詳細は本書を参照)。

 生き残り戦略や成功戦略の違いによって、ニューパワーとオールドパワーの「モデル」と「価値観」の組み合わせはさまざまだ。

 以下のニューパワー・マトリックスを見れば、現在成功している多くの組織(課題を抱えている組織もある)の性質がよくわかるだろう。

ニューパワー・マトリックスニューパワー・マトリックス
ビジネスモデルと価値観の2軸で組織の位置づけがわかる(『NEW POWER これからの世界の「新しい力」を手に入れろ』より)

 横軸は、組織の価値観がニューパワーかオールドパワーかを示している。

 縦軸は、組織のビジネスモデルが、人びとの「参加」や「対等な関係」を促進する仕組みを持つニューパワー・モデルか、人びとに「規則の順守」や「消費」を求めるだけのオールドパワー・モデルかを示している。

クラウド:モデルも価値観もニューパワー

 たとえば、黒人差別撤廃を呼びかける「ブラック・ライブズ・マター」運動は、ニューパワー・モデルだ。きわめて分権的であり、組織のオーナーや従来型のリーダーが存在せず、「対等な関係」と「参加」のあり方について、全米の人びとの意識を高めた。さらに、ニューパワーの価値観に基づき、組織のメッセージの解釈について、サポーターたちに大幅な自由裁量を与えており、意思決定の透明性も高い。たとえば最初の綱領は、ゆるやかに結びついた人たちが集まって作成した。

 こうした理由から、この組織は「クラウド」(=群衆)のカテゴリに当てはまる。

 エアビーアンドビーもこのカテゴリに入るが、ブラック・ライブズ・マターよりずっと中心寄りだ。エアビーは非常に効果的なニューパワー・モデルで、6万5000都市に300万名のホストが存在する。価値観もニューパワー寄りで、ホストの個性を尊重し、コミュニティ間の協力や自己組織化を奨励し、コミュニティの規範として透明性と信頼を促進している。

 エアビーが成長を続け、規制上の課題や投資家からのプレッシャーに直面していくなかで、ニューパワーの価値観を維持できるか、あるいはオールドパワーの価値観に傾いていくのかは大きな問題となるだろう。

 このカテゴリには戦略上の危険がある。たとえば、オキュパイ(占拠)運動は2011年に生まれ世界中に広まった、不平等に対する抗議活動で、価値観もモデルもニューパワーに該当する。分散型かつ分権的であり、協調的で、きわめてオープンだ。だが、意見の一致に固執し、組織化することを断固として拒んだため、意思決定が著しく困難となり、もっと具体的な変革プログラムに進化することができなかった。

チアリーダー:価値観だけがニューパワー

「クラウド」の下に位置するカテゴリは「チアリーダー」だ。このカテゴリの組織はオールドパワー・モデルでありながら、ニューパワーの価値観を持っている。

 たとえば、パタゴニアは典型的なオールドパワー・モデルで、機能的なジャケットなどの製品づくりに一般の人を参加させたりはしていないが、その他の点においては、消費者ときわめて協力的な関係を築いている。たとえば、気候変動への取り組みに消費者の協力を求め、大量消費主義への反対を表明している。透明性にも強い決意を示し、サプライチェーンに関する情報や、衣料品工場の労働者の賃金、繊維生産が環境へ及ぼす影響など、大企業の多くは隠しがちな情報も公表している。

 チアリーダーのもうひとつの例は、由緒ある一般紙『ガーディアン』で、財政の建て直しに取り組むいっぽう、業務の刷新を図っている。

 徹底的な透明性を掲げるガーディアン紙は、国家機密を報道したことで、英国政府はもちろん、ほかのメディア各社からも厳しい批判を受けた。透明性は自社の問題にもおよび、広告費の減少を公表し、大胆にも読者らに「メンバー」となって毎月寄付をしてほしいと呼びかけた。そして驚いたことに、2017年の同社の発表では、メンバーは23万人に達し、購読者数を上回っている。いまや広告収入に匹敵する金額を、購読者とメンバーから得ているのだ。

 同紙はニューパワー・モデルの試みとして、読者の直接参加を求めてきた。たとえば、脱化石燃料の取り組みを支援するよう、ビル・ゲイツに働きかけた。また、「カウンテッド」というデータベースを立ち上げて、アメリカで警察官によって殺害された人たちの情報を読者やジャーナリストがデータとして蓄積できるようにした。

 それでも、同紙が「クラウド」ではなく「チアリーダー」に該当するのは、ニューパワーの価値観であっても、基本的なモデルは従来のメディアに典型的な“ダウンロード”型〔大衆に対して、一方的に情報やコンテンツを伝達する方式〕だからだ。

キャッスル:モデルも価値観もオールドパワー

 もっともなじみ深く、該当する組織も多いのは「キャッスル」で、オールドパワーのモデルと価値観を持つ。工場の組立ラインから広告業界まで、多くの人がこれに該当する組織で働いている。典型的な例は国家安全保障局だ。通常は人目につかないように活動しており、大衆の参加に興味を持つとすれば、人びとの行動を密かに監視するときくらいだ。

 ノーベル賞を決めるノーベル委員会も一例で、少人数の専門家らが年に一度、非公開の会議を開催し、世界でもっとも優秀な人材を選出している。