妻の浮気が原因で離婚。突如、5歳の息子との父子家庭になった。手元に残された全財産は90万円。定時退社で保育園へ息子を迎えに行く毎日で、残業代ゼロ。年収400万円で、カツカツの生活だった。ギリギリの節約生活で、4年で1000万円を貯め、本格的に株式投資を開始。紆余曲折を経ながらも某企業の大株主になり、資産2億円以上を築いた。いまや成長し、就職した息子とふたりで焼鳥屋に行ったとき、これまでの半生を振り返り、「投資家」と「労働者」の話をした。
「サラリーだけで生きられる時代は終わった」
「億の資産をつくるにはお金に働いてもらうことだ」
「リスクをとらないと得られるものはないぞ」
離婚して父子家庭になり、全財産90万円から資産2億円以上を築いた父親が、投資術を初公開。いま息子へお金と投資の話を教える『どん底サラリーマンが株式投資で2億円』

地獄へ落ちるPhoto: Adobe Stock

地獄へ突き落とされる

資産1億円を目指して株式投資を再スタートしたところ、1000万円が1年ほどで2億円以上になり、万々歳。

それなのに、この段階で利益確定しなかったのは、身のほど知らずにも、密かに「資産5億円」という目標を再設定したからだった。

なぜ5億円だったのか?それはなんとなくとしか言えない。

なんの根拠も目算もなく、「この調子で一気に資産5億円まで増やせたら、株式投資をやめて、サラリーマンも辞めてしまおう」という漠然としたビジョンを抱いたのだ。

社会人になったとき、終身雇用で長く働ける会社がいいと思っていたけれど、父子家庭になってサラリーマン生活に疲れてくると、早期リタイアへの憧れも抱くようになっていた。

心のどこかに、プチITバブルがもう少し続いてくれるのではないか、という淡い期待があったのかもしれない。

早期に資産2億円を達成し、父子家庭の未来もこれで明るいと小躍りしたのだが、その幸せは1ヵ月も続かなかった。

2006年1月17日、ライブドア・ショックが起こったのだ。

前日の1月16日、風説の流布など証券取引法違反の容疑により、東京地検特捜部は旧ライブドア本社と堀江貴文(ホリエモン)社長の自宅などを家宅捜索した。

のちにホリエモンは逮捕され、2011年に最高裁で懲役2年6ヵ月の実刑判決が確定して収監された。

翌17日には、ライブドア関連7銘柄に売り注文が殺到し、関連銘柄が上場していた東証マザーズ市場の株価は、一気に12%近く下落した。

それでも日経平均株価とTOPIX(東証株価指数)は大きく下落せず、午前中の前場が終わる頃にはプラスに転じてさえいた。

それが激しく動揺するようになるのは、ネット証券大手のマネックス証券がとった信じられない行為によるものだった。

午後の後場の真っ最中、マネックス証券は突如、ライブドア関連銘柄の担保能力をなんの予告もなしに「掛け目ゼロ」とした。

掛け目というのは、信用取引をする際、現金を100としたときの株の担保価値の比率のことだ。

これがゼロになるということは、ライブドア関連銘柄に信用取引している投資家は、証拠金を追加で積み増しするか、他の銘柄を売る換金売りをするしかなくなる。

証券会社が、リスクをすべて投資家に押しつけるような愚行とも思えた。

市場では、他の証券会社も、大手であるマネックスの動きに追随するのではないかという思惑から売り注文が殺到した。

翌18日は、狼狽した個人投資家から広く売り注文が入り、午後には東証の売買システムの処理能力を超える恐れが出たことから、全銘柄取引停止の措置となり、株式市場全体に衝撃が広がった。

2005年と2006年、2020年に、東証はシステム障害で全銘柄取引停止の措置をとったが、この20年間にシステム障害以外で全銘柄取引停止になったのはライブドア・ショックのみ。

その実態は、“マネックス・ショック”だったのだ。

事情を知らないため、ライブドア・ショック=ホリエモンのせいと誤解している人もいるようだが、実態はマネックス・ショックだった。