脱炭素地獄#9Photo:Katsumi Murouchi/gettyimages, Bim/gettyimages

企業の競争力を測る物差しが「利益」から「炭素」に変わる――。炭素をたれ流す“非エコな企業”は世界の「脱炭素シフト」の波に乗れずグローバル競争から脱落する危機にある。そこでダイヤモンド編集部では、統合報告書を開示している大手企業を対象に「炭素排出量と財務データ」をミックスさせた独自ランキングを作成した。特集『脱炭素地獄』の#9では、自動車や電機、機械など製造業100社に絞って、脱炭素「脱落危険度」の高い「ワースト100社」を公開する。(ダイヤモンド編集部副編集長 浅島亮子)

10年前の「製造業の六重苦」よりもピンチ
国内生産危機の自動車・電機メーカー

 日本に生産拠点を置く国内メーカーが「製造業の六重苦」に見舞われたのは、2011年の東日本大震災の発生後のことだった。

 六重苦とは、超円高、高い法人税率、労働規制、自由貿易協定の遅れ、環境規制、電力問題のことを指す。特に、円高の進行と電力供給不足に伴うコスト増が、自動車メーカーや電機メーカーの業績を直撃。「国内でものづくりをして輸出で稼ぐ」という国内製造業の加工貿易モデルの限界が露呈したのだった。

 それから10年。日本の製造業を取り巻く事業環境は、当時と比べて更に厳しくなっている。

 世界の脱炭素シフトは、主要国による経済覇権争いを熾烈化させた。主要国は、半導体や電池などのキーデバイスやその原料の囲い込みに躍起になっている。その一方で、石炭火力由来の電気で作られた海外製品を、炭素税の賦課や独自の脱炭素ルール策定によって締め出しにかかっている。そうすることで、自国にとって「有益な製品」のサプライチェーンを構築しようとしているのだ。

 日系メーカーは、世界の保護主義化に対応した「生産体制の再構築」を迫られている。端的にいえば、(日本などでの)大量生産を前提とした「最適地生産」から需要地に近いところで生産する「地産地消」へ転換しなければならなくなる。

 例えば、日本の自動車メーカーはドル箱市場である米中の双方でサプライチェーンの構築を進めなければならない。最近になって、トヨタ自動車が米中の双方で車載電池の巨額投資を決めたのもそのためだ。原料、部品から完成車までのサプライチェーンの一部が海外へシフトするので、国内産業の空洞化は避けられない。

 その上、国内生産を維持するハードルも上がっている。まず半導体などの部品や、金属シリコンやアルミニウムといった素材の価格高騰で原価がアップしている。その上、液化天然ガス(LNG)の価格高騰と再生可能エネルギーシフトにより、電力料金のアップも避けられない。日系メーカーの国内生産維持の限界は、産業空洞化に拍車をかけることになるだろう。

 企業の競争力を測る物差しが「利益」から「炭素」に変わるーー。炭素をたれ流す非エコな企業は、ビジネスの参加資格すら得られない状況が現実のものとなりつつある。

 典型的なのが米アップルの方針だ。30年までにサプライチェーンの100%において脱炭素を達成するとしていて、それに対応できないサプライヤーはアップルと取引できなくなる。

 目下のところ、日本企業に差し迫っている関門は、脱炭素リスクの開示だ。主要国の金融当局が中心となって設立された「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」の提言に基づく気候変動リスクの情報開示が、順次義務付けられる方向で議論が進められている。来年4月には東京証券取引所が再編されるが、その“最上位”であるプライム市場の上場資格として、TCFDに準拠した情報開示が義務付けられている。

 炭素を減らす取り組み、ビジネスモデルのチェンジ、脱炭素リスクの情報開示に伴う事務的コストの増加――。脱炭素が企業に大きな負荷を強いることは間違いない。

 そこでダイヤモンド編集部では、統合報告書を開示している大手上場企業を対象に「炭素排出量と財務データ」をミックスさせた独自指標を設定し、ランキングを作成した。

 本稿では、対象を炭素排出量の多い12業種に限定し、脱炭素による“脱落危険度”が高いランキング【ワースト100社】を大公開する。言い換えれば、脱炭素シフトという環境激変に“殺される”危険性が高い企業のランキングである。

 ガソリン車から電気自動車(EV)へのビジネスモデル転換を迫られるホンダやトヨタ系のアイシンといった自動車関連企業、さらにはレガシー企業の代表といえるパナソニックは何位にランクインしたのか。

●ランキング対象:製造業100社
輸送機器、電気機器、機械、精密機器、金属製品