日本製鉄や日本製紙など製造業が自家発電施設として所有する石炭火力発電所は、二酸化炭素を多く排出する「悪者」として、投資家や環境団体などからやり玉に挙げられている。石炭火力発電をできるだけ“クリーン”にする必要があるが、そのフィールドをビジネスチャンスとして三菱商事や東京ガスなどが攻め込んできている。特集『脱炭素地獄』(全19回)の#10では、自家発の石炭火力発電所を巡る“狂騒曲”をお届けする。(ダイヤモンド編集部 堀内 亮)
「自家発をつぶされたら会社が持たない」
非効率石炭火力への規制にいら立つ製造業
菅義偉前首相が2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を宣言した20年10月より、さらにさかのぼること3カ月前のことだ。
「非効率な石炭火力発電についてはフェードアウトしていく」。当時の梶山弘志経済産業大臣は、二酸化炭素(CO2)を多く排出する非効率な石炭火力発電所を30年までに休廃止させると、突如として明言したのだった。
さらに梶山氏は、非効率な石炭火力発電所を“退場”させるための規制的な仕組みを設けるとまで踏み込んだ。このため、非効率な石炭火力発電所を39基抱える電力業界は「電力の安定供給に支障を来す」などと猛反発した。電力業界が得意とする“停電リスク”を盾に、政府を脅したのだ。
実は電力業界よりも激怒したのが、非効率な石炭火力発電所約40基を自家発電施設として活用していた鉄鋼、製紙、化学といった製造業だった。「非効率な石炭火力だからといって、自家発をつぶせと言われたら会社が持たない」。ある製造会社の幹部はいら立ち、危機感を募らせていた。
製造業が自家発をつぶせないのはなぜなのか。日本製鉄が石炭火力発電所を休廃止した場合にどの程度のコストアップ要因となるのか。“衝撃”の試算結果を明らかにする。
そして、他人の不幸は蜜の味――。三菱商事や三井物産、東京ガスなどは製造業の窮地に付け込んで、虎視眈々と商機をうかがっている。