「グローバルな市場で競合と戦っていくには、もっとビジネスのスピードを上げねばならない」

 大坪文雄・パナソニック社長は会見で、そう強調した。

 7月29日、パナソニックは2011年4月をメドに、上場子会社のパナソニック電工と三洋電機の株式を買い増し、完全子会社化すると発表。スピードを上げるには、完全子会社化し、緩やかな提携から抜本的に事業を再編しなければならないという決意の表明でもあった。

 買収総額は最大で8184億円。株式公開買い付け(TOB)を実施し、TOBに応じない株主には株式交換を行うという計画だ。その後、2社は上場廃止となり、12年1月までに3社の事業をAVや家電向けの「コンシューマー」、太陽電池や電子部品などの「デバイス」、住宅設備や医療介護などの「ソリューション」の三つの分野に再編する。ブランドは、基本的にパナソニックに統一する。

 なぜ、完全子会社化なのか。

 確かに現在の50%超の持ち分では、少数株主の存在があり、三洋が強い電池事業をごっそりパナソニックに移管してしまうといった大胆な再編はやりづらい。

 加えて、3社それぞれの社員の意識改革が急務。それぞれの独自性を尊重し合う現在のコラボレーションというやり方は、一定の成果を上げてはいるものの、満足のいく内容ではない。そのため、完全子会社化という力業が必要になったというわけだ。

 これらの理由から今回の決断は、長期的に見て正しいだろう。だが、足元を見れば、パナソニックは厳しい状況にある。それは財務面だ。

 三洋を買収する前は、手元資金から有利子負債を引いたネットキャッシュは1兆円近くあった。だが、昨年12月の三洋子会社化後は、1000億円超のマイナスに転じたまま。そんな最中の8000億円超の投資は、「増資を検討しなければならないほど、そうとうキャッシュを使い込んでしまう。かつてのキャッシュリッチの面影はない」(パナソニック幹部)。

 もっとも、最大で8000億円の資本投下に対し、「2000億円程度は株式交換ですむだろう」(関係者)との見方に加え、「少数株主利益の取り込みで500億円。また、統合によるシナジーで600億円の営業利益が見込まれ、税金で半分引かれても300億円残る。合わせて800億円となり、中期経営計画で掲げたROE10%にもかなう投資」(別のパナソニック幹部)との見方もある。

 とはいえ、当分のあいだ、キャッシュに余裕がない状態が続き、事業への投資はそうとう抑制されることになるだろう。完全子会社化によってどこまで固定費を削減でき、キャッシュを創出できるのか。世界で伍していけるかどうかは、まさしくその一点にかかっている。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 藤田章夫)

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