大学卒業後、バックパッカーとして世界を放浪した。シンガポール滞在時(左)とセーリングで香港に向かう途上(右) 写真提供:スティーブン・バード氏
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日英教育の違いはどこにあるのか

――生徒の意識で英語に対する向き合い方も違ってきますね。ところでバード先生は、パブリックスクールのご出身なのですか。

[聞き手] 森上展安(もりがみ・のぶやす) 森上教育研究所代表。1953年岡山生まれ。早稲田大学法学部卒。学習塾「ぶQ」の塾長を経て、88年森上教育研究所を設立。40年にわたり中学受験を見つめてきた第一人者。父母向けセミナー「わが子が伸びる親の『技』研究会」を主宰している。

バード 私は、英国の公教育では一般的なコンプリヘンシブスクールと呼ばれる総合制中等学校で学び、運良く大学にも進学することができました。

 後ほどお話ししますが、マレーシアでパブリックスクールの現地校の立ち上げにも参加しました。ですので、日本の私立校とパブリックスクールの相違点について、いくつか説明しておきたいと思います。

――具体的にはどのような点が異なりますか。

バード まず1クラスの人数が異なります。日本では30人以上、場合によっては40人以上もの生徒がいます。パブリックスクールでは通常、小学校(プライマリー)は24人以下、中高(セコンダリー/5年制)では20人以下、大学進学のための12~13年生ではより少人数で10人以下のことも多いです。

――クラスのサイズはだいぶ違いますね。大学進学の面ではいかがでしょう。

バード 大学入学資格について、日本の制度は皆さんご存じの通りです。日本の高校では、国際バカロレアディプロマプログラム(IBDP)と同様、非常に幅広く学んでいます。とはいえ、日本の高校卒業資格を得たからといって海外の大学に直接進学はできません。英語力にもよりますが、半年から1年間の入学許可を得るための予備学習が必要となります。

 パブリックスクールの場合には、小中高で11年間学んだ後、12~13年生(the sixth form)が高卒資格と大学入学資格を兼ねたAレベルを取得するため、幅広く設けられた科目の中から大学側が要求する三つ以上の科目を受講します。IBDPを取得するよりも、学習負担は小さいと思います。

――海外大学への直接進学を考えた場合にはいかがですか。

バード ハロウやラグビーなどの日本校では英語で学びますので、その点は優位です。英国のカリキュラムを基本とした、国際的に通用する国際中等教育修了証(IGCSE 9科目)を得られ、その後にAレベルを取得するための(3科目)とEPQ(Extended Project Qualification)と呼ばれる課程も用意されています。

 とにかく、イギリスのパブリックスクールやインターナショナルスクールを卒業すれば、海外の大学に直接入学できる資格を持っていることになります。

 日本の学校から海外の大学に直接入学することは、難しい面があります。先に述べたように、入学してから英語で行われる授業についていけるだけの語学的な能力を身に付けるための予備学習が必要ですが、これは、その生徒の英語能力に応じて期間が短くなることもあります。

 例えば、英語運用能力評価試験であるIELTS(アイエルツ)で6.5以上、もしくはTOEFLで規定のスコアを取得すれば、期間が短縮されたり、大学制定の講習を受けることで、予備学習が免除されることもあるようです。早くから対策を立てることで、日本の高校からの海外の大学への入学を可能にできると考えます。

――学び方の違いは大きいですね。

バード 日本の授業では、教師と生徒の双方向でのやり取りはあまりありません。教師の言うことを聞いて、教えられたことを暗記するよう求められています。その点、パブリックスクールはよりアクティブで、自分で調べてきたことをプレゼンして、自分のアイデアや意見を交わすことが求められています。しばしば正解のない問いであり、批判的に考えることが試されています。

 とはいえ、最近では、日本の学校でも生徒の自発的な学習を促す授業が活発になっていると思いますし、規律を守るという点では、日本の方が優れていると感じることも多いです。当たり前のことですが、それぞれに、優れている点がありますね。

 また、部活動への取り組みは大きく異なります。日本の私立校の場合は3年から6年間、一つの部活動に取り組みますが、パブリックスクールでは最初の学期ではラグビー、次の学期にはクリケット、といった具合に、いろいろな部活動を経験します。練習の頻度も週に1~2回で、休日には活動しません。

――部活動はそんなに違うのですね。日常生活も同様ですか。

バード  前述のように、部活と学校生活では取り組み方がかなり違います。例えば、清掃活動が典型で、日本の学校では毎日のように他者のことを考えて教室や校内の清掃を行うことが多いのですが、パブリックスクールの生徒はそうしたことを課されませんので、自分たちの教室を清掃することもありません。

外国人英語教授法(TESOL)を学ぶインターン生やヘンリー8世校の同僚と(2022年) 写真提供:スティーブン・バード氏