家庭と塾とのつながり方

――家庭の教育力ということに話を戻しますと、塾の役割はどのようになるのか。

布村 学校に限界があるので、塾も補完的な存在から、セカンドスクール的な役割に変わっていくのではないかと、1年に満たない体験からも痛感させられています。

――昔の適塾や慶應義塾のような存在になるのかもしれません。OECDでも同じ問題意識がありますね。

布村 10年くらい前、東大寺学園の渉外部長として講演などに行きますと、「これから個別塾は先細りです」と言われていました。ところがいまは勢いがあって、どんどん増えている。塾という名前を変えてでも、日本の教育のためにやれることはあるなと思います。

――一斉で授業を行う進学塾では、模試の結果で偏差値が付き、それに基づきクラス替えを行うような競争的な環境が一般的です。その点、個別指導塾では自分との闘いみたいなところがあって、本来の勉強には向いている面もあるのかもしれないですね。

布村 その子に必要なものにはアプローチできます。バランスが取れないと入試には厳しい面もありますが、興味関心に応じて伸ばしてあげることもできますから。

――個別の最適化といいますが、嫌だなと思うと伸びませんものね。

布村 指導するのは大学生が中心ですが、塾生との相性も考えます。おとなしい子には優しい先生を、全然宿題をやってこない子には厳しめの先生を。女の子は女の先生がいいと言いますし。勉強を好きになるような仕掛けが必要です。

――子どもたちが放っておかれている状況をどうするか、ですね。

布村 子どもたちが変わったというよりも、環境が大きく変わりました。それに応じて教育のアプローチも変えていかなければならなかった。学校の持つ役割も変わってきましたから、学校に行かせておけば大丈夫、ではなくなっています。

――塾と家庭のつながりという点では。

布村 家庭学習推進協会の4月1日に行った3回目のイベントでは、新学年が始まるタイミングで、主体性を育む「家庭学習」をどのように進めたらいいのか、そのポイントについて話し合いました。

 小学生の家庭学習時間の目安は「学年×15分」といわれます。3年生なら45分ですが、嫌々やっていて、本当に身に付いているのか心配という声をも聞きました。

――塾でも、家庭学習に関する相談がこの時期には多いですね。

布村 新学年には、子ども以上に親の不安や心配が出てきます。その気持ちはお子さんに伝わりますから、お子さんには共感をもって元気に接していただきたい。その上で、本来は家庭でやっていたことの一部を、塾でも行うように役割分担していくことだと思います。

 共働きのご家庭が増え、子どもと関われる時間がますます減ってきている中、家庭学習に主体的に取り組める子どもを育むには、“親の意識改革”と“子どもとの関わり方の工夫”だと思います。

――意識改革の面では、何が重要になりますか。

布村 学校選びと塾選びがとても重要という理解が必要です。いまや私立はもちろん公立でも、進学やキャリア教育やグローバル教育に特化している中高一貫校ができ、独自のSTEAM教育を推し進める学校も増えてきています。

 塾も、小学校受験に特化したプログラムをもつところや、一人ひとりの完全な個別メニューでAIを用いたプログラム力・英語力も鍛えてくれるところ、また教材選びに力を入れて自主性を育もうとするところ、学校と連携強化して放課後に学校に入って授業をするところなどが人気です。自分の子どもの個性を考え、どこに通わせてその潜在能力を伸ばしていくかを真剣に考えないといけない時代です。

――その他はいかがでしょう。

布村 子どもとの関わり方の工夫では、「言葉掛け」が重要です。リフレーミングを意識して、こどものマインドが意欲的になる言葉を選ぶように心掛ける必要があります。親子であっても言葉のキャッチボールは、同じ色の球を投げ合っているとは限りません。しっかりとわが子を見て、その個性に合わせた言葉を掛けることにより、その効果は全然違うものになるからです。
 
 教育には、よくも悪くも国を変えてしまうような力があります。世の中が激変しているいま、国も自治体も家庭も、教育に最も注意を払い、現状をしっかり把握した上で、十分な予算を付けて本気でサポートしていく必要があると感じています。