多くの人が、景気回復を要望する。経済成長を欲する。だが、一国の経済は実力値を上回る活況を持続することはできない。目先の経済変動への対応よりも、実力の底上げこそが重要課題だ。それには、老朽化した日本産業の再編成と資源の再配分が必須だ。だが、日本社会は長期的構造改革にいつまでも取り組まない、と池田信夫・上武大学大学院教授は最新刊「希望を捨てる勇気―停滞と成長の経済学」(ダイヤモンド社)のなかで、危機感を募らせる。取り除くべきボトルネックは、何か。

池田信夫(いけだ のぶお)
1953年、京都府生まれ。東京大学経済学部卒業後、NHK入社。93年退社後、国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上級研究員などを経て、上武大学大学院経営管理科教授。著書に、「なぜ世界は不況に陥ったのか」(池尾和人氏との共著。日経BP社)など、多数。

―「希望を捨てる勇気」というタイトルと「日本経済に足りないのは絶望である」という帯に込めた思いは何か。

 昨年発表された平成20年度版経済財政白書によれば、2030年までの日本の潜在成長率は年率わずか1%未満に過ぎない。潜在成長率とは、長期的な経済成長の持続力であり、その国の経済の実力と言える。イノベーションを起こせず、現在の産業構造を維持するだけでは、潜在成長率が1%もない超低位安定状態がずっと続く、と政府が表明したわけだ。“失われた40年”に突入すると宣言されたのも同然だ。我々の未来は、沈うつで停滞している。

 日本の潜在成長率が低下していることは認識していたが、この内閣府の長期予測には驚き、自分のブログに、「私たちは経済成長を望まず、環境に優しく、穏やかに暮らしていくのがいいのかもしれない」といった内容を、「希望を捨てる勇気」というタイトルで掲載した。もちろん皮肉半分であり、構造的な改革を進めなければならないという思いを込めたのだが、若い読者がブログに殺到し、しかも、同感だという反応が非常に多かったことに戸惑った。

 今の20代、30代は経済成長を体験したことがなく、これまでもそうだったし、これからもそうなのだろう、とごく自然に受け取ったようだ。これはまずい、と思っていた。本のタイトルに込めたのは、「今の日本に足りないのは希望ではなく、変えなければ未来はないという絶望なのではないか」という思いだ。

―この著作では、その潜在成長率の低下を重視し、ボトルネックを解消し、長期停滞を脱することこそが最重要課題だとしている。

 経済の悪化要因は、二種類ある。短期的異常事態による下振れか、長期的なトレンドの低下か。前者を景気悪化、後者を潜在成長率の低下、と言ってもいい。それぞれの処方箋は、まったく違う。短期的異常事態による下振れなら、マクロ経済政策は一定の痛み止め効果はある。しかし、痛みを止めたからといって、病気が治るわけではない。病気の原因=潜在成長率低下の原因は、別に探り当てる必要がある。こうした要因と対策の区分けが、日本には常識として定着していない。短期と長期に分けて考えず、短期的施策を重ねてきた。