
西濵 徹
アルゼンチンは長年の財政悪化と通貨不安に苦しんできたが、自由至上主義を掲げるミレイ大統領の下で大きな転換点を迎えた。大胆な構造改革とインフレ抑制策により経済指標は改善傾向を見せ、国際的な評価も高まりつつある。一方で、対中関係の再構築や対外収支の課題、そして政治的安定性といった懸念も根強い。10月には中間選挙を控えており、改革の行方は国民の審判に委ねられることになる。

韓国で行われた大統領選挙で革新系の李在明氏が勝利し、即日就任する異例の政権交代が実現した。経済格差や少子高齢化といった構造的課題を抱える中、新政権は補正予算の拡充や財政出動を軸にした景気下支え策を打ち出す。外交面では「実用主義」を掲げ、日韓関係の行方にも注目が集まる。

#16
トランプ関税政策のアジア新興国への影響は米中貿易戦争が投影する形で濃淡が出そうだ。中国は米国との大幅引き下げに合意し一息ついた感じだが、米中と関係が深いASEAN諸国はダブルパンチを受けかねない。一方で中国に代わる市場との思惑から低関税とされたインドは有利な立場だったが、ここに来て微妙な様子もうかがえる。

米トランプ政権による相互関税の影響が世界経済に波及するなか、インドネシアは外需の減速とプラボウォ政権の歳出削減に直面している。公共投資の停滞や設備投資の減退、インフラ整備の遅れが景気の足を引っ張り、政権が掲げる高成長路線にも暗雲が漂う。財政運営のかじ取りの難しさが浮き彫りとなっている。

46%というトップクラスの関税をトランプ政権よりかけられたベトナム。中国からの迂回(うかい)輸出先となったために標的とされた形だ。一律10%分を除いた上乗せ分は90日間停止とされたが、影響は回避できない。

トランプ関税の主な標的となっているメキシコ経済。2024年10~12月期はマイナス成長になるなどすでに減速傾向にある。発動と猶予を繰り返すトランプ関税だが、本格的に発動となれば、その影響は極めて大きい。そうなればペソ安が再進行する公算が大きい。

タイ経済は他のASEAN(東南アジア諸国連合)よりもコロナ禍からの回復が遅れている。サービス輸出は好調だが、財輸出の先行きには不透明感が漂う。消費も投資も振るわない状況が続いており、当面は低成長が続きそうだ。

経済成長の鈍化もあり、景気対策を打ち出した中国に資金が向かい、インドの株価はさえない。トランプ米新政権の政策によるドル高期待で通貨ルピーも下落基調。インフレ懸念もくすぶるなどインド経済は苦境にある。

#24
2025年の新興国経済は、米国のトランプ新政権の通商政策に右往左往させられるだろう。メキシコやインド、ブラジルなど2025年の主要新興国経済について、関税をはじめとするトランプ政策の影響と見通しを分析する。

2023年に発足したルラ政権による財政赤字拡大を懸念して、通貨レアル安が進行している。堅調な景気もあり、低下していたインフレは底を打ち上昇に転じた。中央銀行は利上げに転じたものの、ルラ政権からの利下げ圧力を受けている。レアル相場は難しい局面が続きそうだ。

米大統領選挙でハリス氏、トランプ氏のどちらが勝利しても対中国強硬路線は変わらない。トランプ政権になれば中国製品への60%関税にとどまらない強硬で保護主義的な政策が取られる可能性が高い。長期停滞が続く中国経済は、回復の「出口」が見通せない状況が続く。

中央銀行であるニュージーランド準備銀行(RBNZ)は、大幅利上げでインフレの抑制に成功した。しかし、足元では景気減速に拍車がかかっている。8月に利下げに転じたが、今後もハト派姿勢を継続しそうだ。

#9
米大統領選挙でハリス氏、トランプ氏のどちらが勝利しても対中国強硬路線は変わらない。トランプ政権になれば中国製品への60%関税にとどまらない強硬で保護主義的な政策が取られる可能性が高い。長期停滞が続く中国経済は、回復の「出口」が見通せない状況が続く。

韓国経済は対中関係の悪化もあり、減速しつつある。インフレ率も鈍化してきたことから中央銀行である韓国銀行は利下げに転じた。ただ、都市部の不動産価格が底入れしつつあり、さらなる利下げには慎重な姿勢を見せている。

オーストラリア経済は減速基調を強めている。インフレ率は中央銀行の目標を上回っているが、いずれ中銀は物価抑制の姿勢を転換する公算が大きい。米国の利下げ開始でも豪ドル高には限界があるだろう。日本銀行の金融正常化を受けて対円でも弱含みしそうだ。

メキシコ経済は米国経済減速もあり、成長が鈍化している。一方、議会選挙で与党が憲法改正も可能な議席を獲得したことで財政悪化懸念が生じ、ペソ安であることもあり、インフレ率は上振れている。にもかかわらず中央銀行は利下げに踏み切った。先行きの不透明感は強まるばかりである。

5月の総選挙の結果、与党ANCは過半数割れしたものの連立を組むことで南アフリカのラマポーザ政権は継続し、3期目に入った。慢性的な電力不足は解消せず、公的債務残高は膨張を続けており、南ア経済の先行きは楽観できない。

インドの総選挙は与党連合が過半数を確保し、モディ政権は3期目に入った。しかし、与党は獲得議席を大きく減少させ、モディ首相の求心力の低下も懸念される。それはインド経済に残るさまざまな課題解決を遠のかせる可能性があり、経済の成長ストーリーへの疑念を生じさせる。

今年2月のインドネシアの大統領選挙で当選したプラボウォ新政権が10月に発足する。経済の好調は続いており、目標とする「先進国入り」へ向けて順調に歩みを進めそうだが、次期政権での民主化後退懸念が現実のものとなれば、それは経済発展への足かせとなるだろう。

景気減速とともに、インフレ率も低下してきたブラジル経済。中央銀行は昨年8月以降利下げに転じた。しかし、ここにきて米国の利下げが後ずれするとの観測の強まりもあり、ドル高レアル安が進行、緩和ペースの鈍化を迫られている。
