
唐鎌大輔
岸田政権は「資産運用立国」の旗を振っている。家計に現預金以外での資産を保有してもらおうということである。実際、円安と海外物価高の両面でそのデメリットを家計は認識し始めている。そのデメリットを補うためにこそ家計は円建ての現預金以外、特に外貨建ての資産を持つべきである。

6月の貿易収支が23カ月ぶりに黒字になった。資源価格の下落による輸入減少が主因である。しかし、資源価格の要因や円安の要因を除いても日本の貿易収支の悪化傾向は明らかであり、構造的円安要因となっている。

今年の骨太の方針では、家計金融資産を開放し、持続的成長に貢献する「資産運用立国」を実現すると記された。預貯金偏重の家計の資金を投資に振り向けることを意図している。しかし、低成長ゆえに預貯金偏重になった因果関係を認識した上で策を講じていかないと、思わぬデメリットが生じかねない。

貿易収支の赤字は定着した。海外からの配当金や利子の収支である第1次所得収支の黒字で経常収支の黒字を確保はしている。しかし、その黒字のうち外貨から円に転換されるのは半分程度だ。貿易赤字による海外への資金流出額はカバーされず、需給面では円安に作用する構造となっている。

米国のインフレは高止まりの気配はあるものの、ピークはつけつつある。一方、ユーロ圏の物価はピークをつけたとは判断しがたい状況にある。その差は金融政策に表れる。FRB(米連邦準備制度理事会)は利上げ幅を縮小したが、ECB(欧州中央銀行)は当面は縮小しない見通しだ。それは為替相場動向に反映される。

2023年は円高ドル安の年となるといわれていた。しかし、22年11月以降の円高反転時からみても大きく円高は進んでいない。名目で円高進んでも実質ベースでみれば依然、歴史的低水準にある。

#3
家計からの資本逃避が絵空事ではなくなった。2022年に進んだ大幅な円安は、外貨建て資産の比率を増やしていた家計に大きな利益をもたらしたと、みずほ銀行の唐鎌氏は分析する。うまみを知った個人マネーは、今後の円高・ドル安局面でドル買いに向かっていくだろう。外債投資の増加がさらなる円安を招く。

22年度上半期の経常収支の黒字は、前年同期に比べ4割減少した。安定的な資金フローを表す、経常収支と旧長期資本収支の合計である基礎収支の悪化が今回の円安の背景にある。反転に向け、日本に残された「最後の手札」があるのだが、それはいったい何か。

FRB(米連邦準備制度理事会)は、急ピッチで利上げを進めている。拡大する日本との金利差が円安進行の主因となっている。市場では、23年春には米国のインフレ圧力が後退し、金利のピークが見え円安も止まるとの見方も多いが、その見通しに疑問を呈する三つの理由について解説する。

2022年4~6月期の実質GDP(国内総生産)がコロナ前の19年10~12月期の水準を上回った。しかし、ピークは19年7~9月期であり、その水準を上回っていない。さらに、日本人の購買力を表す実質GDI(国内総所得)は、コロナ前を上回るどころか減少が続いている。

日本は31年連続で世界最大の対外純資産国の地位を守った。円の信認の最大の根拠とも言える。しかし、その中身を見ると円を支える力が失われつつある。それはなぜなのか、統計を基にひもといていく。

岸田文雄首相が、自身が掲げる「新しい資本主義」に基づき、5月の訪英時に打ち出した「資産所得倍増プラン」。2000兆円の日本の個人金融資産を貯蓄から投資へと向かわせるのがその趣旨だが、そこには為替・金利市場にもたらす2つのリスクが潜む。

円安が急速に進行しても、日本銀行は金融緩和を続け、円安は日本経済にプラスであるとの姿勢を崩さない。果たして、それは本当なのか。日銀のレポート、過去の円相場と輸出動向の関係などから検証した。

ロシアのウクライナ侵攻を契機に原油、穀物の価格が上昇している。その多くを輸入に頼る日本の貿易赤字は拡大し、経常収支も月間で赤字に転落した。経常赤字の常態化は円を支える要因の消滅を意味する。

米国金利上昇、米国株下落、ロシアのウクライナ侵攻懸念など市場はリスクオフに傾いている。以前であれば、「リスクオフの円買い」が起きて、円高がかなりの幅で進行していた。しかし、2022年に入って、円の対ドルレートは3円弱の幅の動きにとどまっている。日本の株価も主要国に比べてさえない動きが続いている。日本は市場から回避されている。

今後のドル円相場に対する市場の大方の見方はドル高円安である。この見方を覆す要因があるとすれば日本銀行の金融政策正常化かもしれない。円安がインフレに拍車を掛けることになれば、岸田政権は円安を放置できまい。そうなれば、日銀が正常化に踏み切る可能性はあるのではないか。

ドル円相場は4年8カ月ぶりの115円台をつけた。今年の変動幅は、5年ぶりの大きさになる見通しだ。インフレに対応し、金融政策の転換を模索する他の主要国の中央銀行と違い、日本銀行に政策変更の兆しはない。こうした状況下、次の大相場は円安となる公算は小さくない。

外国為替市場で、円の実質実効為替レートが1970年代前半並みの水準まで落ち込んでいる。「割安な実質実効レートはいずれ修正が進む」と考えるのは教科書的に正しいが、これを前提に為替予想を行うことは危険をはらんでいる。

PMI(購買担当者景気指数)のような景況感や心理を表す経済指標が悪化している。それを裏付けるかのように、景気の先行指標である、銅価格を金価格で割って算出される「銅/金レシオ」も低下している。中国経済の指標にも伸びが鈍化するものが目立つ。世界経済の先行きに黄信号がともりつつある。

6月の金融政策決定会合で日本銀行は気候変動対応への投融資を支援する枠組みの導入を決めた。しかし、中央銀行が企業の資源配分に介入することは中立性に反する。また、環境対応は短期的には不況やディスインフレを招きかねない。中央銀行は環境対応に距離を置くべきだ。
