「世の中になかった職業」を自分でつくっていく
――たどり着いたスタートアップ支援

斎藤 僕が榊原さんと出会ったのは、たぶん起業して1ヵ月くらいのときでしたよね。何を目的に、サムライインキュベートを立ち上げたのでしょうか?

榊原 シンプルに、「スタートアップ支援」ですね。

斎藤祐馬(さいとう・ゆうま)
トーマツベンチャーサポート株式会社事業統括本部長。公認会計士。1983年生まれ。中学生のとき、脱サラして起業した父親が事業を軌道に乗せるのに苦労している姿を見て、ベンチャーの「参謀」を志す。2006年、監査法人トーマツ(現・有限責任監査法人トーマツ)入社。2010年、トーマツベンチャーサポート株式会社の再立ち上げに参画。従来の公認会計士の枠には収まらない「ベンチャー支援」という活動に対して当初は理解を得られず、社内からは逆風も吹くが、一つひとつ壁を越え、社内外に仲間を増やし、大きく成長するに至った。現在は、「挑戦する人とともに未来をひらく」というビジョンのもと、国内外で奮闘する100名以上のメンバーとともに、ベンチャーだけではなく、大企業、海外企業、政府、自治体などとも協働し、自らのミッションを生きる日々を送っている。起業家の登竜門「モーニングピッチ」発起人でもある

斎藤 でも、僕もよく覚えていますが、そのころって「スタートアップ」という言葉の受けも悪くて。起業してまで支援しようと思ったきっかけって何だったんですか?

榊原 1つは、「自分の力を活かせるところ」はここだ、ということ。やっぱり、アクシブをゼロから、率いたチームで売上十数億円ぐらいまで持っていったので、その自分の力を活かせるところっていうと、そこしかないかな、と。もう1つは、ライブドアの事件があったりして、スタートアップを支援する人が誰もいなかったんです。だから、そこをやってやろう、と思って。

斎藤 立ち上げには、苦労されていましたね。でも感情曲線を見ると中高生のころや医療業界にいたころに比べると、落ち込みはそこまででもないのが興味深いです。

榊原 すぐに上昇局面に入ったのは、ファンドを持ったことが大きいです。基本的に、スタートアップが欲するものはお金なんですよね。お金を持って、人が集まりだすと、サムライインキュベートというものが、世の中に求められるようになっていくのを感じました。自分で世の中になかった職業をつくっていく、という感覚でしたね。本当に好きなことをやってる、という感じです。今も当時も。

斎藤 最初にお会いしたときって、少額のフィーでベンチャーのコンサルティングをする、でしたよね。

榊原 ベンチャーといっても、ある程度大きくなったところが対象でしたね。最初3社ぐらいコンサルして。でも結局、少ない会社さんしか支援できないので、これじゃ違うなと思って、いまの形に至る感じです。スタートアップからお金を取るのは、全然よくないなと思って、完全成果報酬のモデルがファンド型にたどり着きました。お互いにとって、いつかこっちが儲かるかもしれないし、スタートアップ側もお金の痛みがないっていうモデルが、ベンチャーキャピタル事業だったっていうことです。

 あとは、オフィススペースがない、弁護士のサポートがない、大企業の支援がないというのを、全部支援してやっていったら、いまの形になりました。基本的には、スタートアップの悩みをすべて解決してきただけですね