→答えは、拡大画像表示 です。

重ねる技術:
合気道のように解決する

「嫌い」と言っている人に、無理にこちらの論理を押し付けたところで、うまくいきません。そうではなく、相手の視点から見たときに、どのような偏見や考えがあるかを理解すれば、シンプルに解ける問題が多くあります。

「自分は正しい」「日本ではうまくいっていた」という自分の論理が強すぎると、日本のヒット商品でも海外では売れないということにもなりかねません。展開したい地域の人たちが持つ特有の捉え方、感じ方を肌身で知る必要があります。そして、まるで合気道のように相手の力を利用し、うまく合わせていくくらいがちょうどいいのです。こだわりを捨てて、相手の力を利用するほうが、新しい展開は生まれやすくなります。

 そもそも新しいアイデアは組み合わせの結果にすぎません。イノベーションの父といわれるヨーゼフ・シュンペーターも、「他のものを創造すること、あるいは同じものを異なる方法で創造することは、これらの構成素材・影響要素を異なるやり方で組み合わせることである。いわゆる開発とは、新しい組み合わせを試みることにほかならない」と語っています。

 この新しい組み合わせをつくるためには、相手と自分をどう組み合わせるかが重要なので、自分の考えばかりに固執せずいかに柔軟であるかがポイントとなります。

企業の強み・思い:
おいしいのに、ただの食わず嫌いなら、
「嫌い」と思わせなければいい

 ニューヨークのマンハッタンにある博多料理店「HAKATA TONTON」は、NYミシュランを5年連続で受賞している人気店です。

 長年、アメリカでレストランを営んできた経験から、「食わず嫌い」が起きるのは、テーブルに並ぶ瞬間ではなく、メニューを選ぶときだとわかっていました。つまり、その料理を見る前に、言葉が持つイメージで人は選択するということです。

 オーナーであるヒミ*オカジマ氏は、豚肉を食べないユダヤ系住民も多いニューヨークで豚足を人気メニューにした人物です。「TONSOKU」という聞きなれないメニューを見てお客様は、「『TONSOKU』って何ですか?」と聞いてきます。そこで彼は、「『TONSOKU』はフランス人がこよなく愛している料理『Pied de cochon』だ」と。「『Pied de cochon』とは何ですか?」と聞かれたときには、「『Pied de cochon』は豚足だけど、フランス人が愛しているんだ」と伝えると、「フランス人が食べているなら食べてみよう」といって人気が出たそうです。

 お客様がメニューを選ぶときに、「嫌だ」「気持ち悪い」と思わなかったら、そのまま食べてしまうはずです。明太子はアメリカ人の味の好みにも合っているので、食べさせたら必ずやそのおいしさに納得してもらえることを確信していました。

生活者の本音:
生の魚の卵は気持ち悪いが、興味や好奇心はある

 アメリカではヘルシーフードとして日本食が大人気です。豆腐などアメリカ人でも食しやすいものから、以前は食わず嫌いが多かったSushiまで、食通たちのあいだで市民権を得て定着しています。しかし、生で食べることに馴染みのない文化圏のアメリカ人にとって、「生の魚の卵」と、直接伝えてしまうと気持ちが悪いと思われてしまいます。

重なりの発見:
相手の文化を知り、キャビアのイメージと重ねた

 どうしたら、この文化の違いを乗り越えられるか?「HAKATA TONTON」は、「生の魚の卵」であることを「伝えずに伝える」ことにしたのです。

 アメリカ人にとって馴染みがあり、好きな食材と重ねてしまえば食べたいと思うはず、と考えました。そして「TONSOKU」でも使ったあのマジックワード「フランス人も大好き」を活用したのです。

 ヒミ*オカジマ氏は、アメリカ人は自国の食文化が浅いため、フランス料理をリスペクトする傾向があることに気づいていました。そこで、明太子を「生の魚の卵」と言わずに、「フランス人も大好きなキャビアの一種だ」と言い張って出すことにしたのです。

 名前も明太子ではなく「HAKATA Spicy caviar」へ。すると、「Cod roe(タラの卵)」とメニューに書いていたときには、「気持ち悪い!」と敬遠されていたことが嘘のように、すぐにヒットメニューになったのです。

 もしも日本人の感覚を押し付けていたら、明太子はニューヨークで市民権を得られなかったかもしれません。相手の「認知の仕方」をうまく利用して、重ねたのです。

 日本のおいしい素材を食べてもらいたいという熱意と、フランス人が好きなら食べてみようと思ってしまうアメリカ人インサイトを重ねた結果、「シャンパンにも合うじゃないか!」と大好評の「HAKATA Spicy caviar」は生まれたのでした。


参考文献
・『世界の経営学者はいま何を考えているのか』(入山章栄著・英治出版)
・「アメリカ人の『食わず嫌い』を'言葉'で直したレストランオーナー」、語学力アップブログ、2013年8月5日配信
・「"コラーゲンブーム"をつくった男が明かした、言葉で現象を生み出す最もシンプルな方法」、ログミー