いま、1~2人前の小鍋料理が空前の大ブーム。簡単にできて、とてもおいしい。冷えたカラダもポッカポカになる。しかも、洗いものも少ないのだから、忙しいビジネスパーソンに大人気なのも当然です。しかし、どうしてもワンパターンになりがち。そこで、大人気料理家の小田真規子先生に、誰でも簡単にできてめちゃくちゃうまい小鍋レシピを集めた『まいにち小鍋』をまとめていただきました。本連載では、その一部をご紹介してまいります。ぜひ、今日の晩御飯にお試しください!(構成:田中泰、前田浩弥)
2016年、冬。手軽な「小鍋料理」が大ブームに!
午前0時22分。
やっと家にたどり着いた……。
年末年始の休みを前に、すべての仕事は前倒しとなり、スケジュールは朝から晩までびっしり。終電直前に会社を出る日々が続く。
ヘトヘトになって家に帰ると、残った体力でなんとかコートとスーツを脱ぎ、部屋着に着替えて、いつものように1人前の小鍋を火にかける。
もう何年も、冬になれば、晩ご飯はもっぱら「小鍋」。
ウチにはもちろん大鍋もあるが、使用頻度は少ない。土日に家族が揃うときに、たまに使うくらい。使用頻度は、圧倒的に「小鍋」が高い。
なぜなら、すこぶる便利だからだ。
妻も働いているから、平日に食事の時間を合わせるのは難しい。ウチの場合は、妻のほうが帰宅は早いが、疲れてるから手のこんだ料理はできない。むしろ、夫婦それぞれ、帰宅時に自分の料理をつくるほうがいい。
そうなると、小鍋が重宝する。
小鍋に水を入れて、顆粒ダシを入れる。豆腐と鶏肉、白菜をつっこめば基本OK。ポン酢に一味をかけたツユで食べれば、まぁ、満足だ。
3分もあれば、小鍋の仕込みは完了。
テーブルに出しっぱなしのコンロにかければ、早くもビールが飲める。
コンロの火で冷えたカラダも温まる。
いい加減に煮えて来たら、小鍋をつまみにビールをちびちび飲みながら、テレビを観たり、新聞や本を読んだり、ひとときのホッとする時間を過ごす。
いい感じにほろ酔いになって、まだ食べたりなければ、「締め」のおじやかうどん。冷凍したごはんや冷凍うどんをそのまま小鍋につっこんで、卵で仕上げれば満腹にもなれる。
ありがたいのは、洗いものが少ないこと。
小鍋は調理器具でもあり、食器でもある。だから、洗いものが増えないのだ。
ささっと洗って、食事は完了。あとは、風呂に入って寝るだけ。
「小鍋」には食費もかからないので、忙しいサラリーマンにはうってつけの料理なのだ。
とはいえ、毎回、「顆粒ダシ+ポン酢」だと、さすがに飽きもくる。
小鍋のバリエーションを増やそうと思って、書店の料理本コーナーに行ってみたが、鍋料理の本はたくさん並んでいるが、「小鍋」のレシピ本は見当たらなかった。「毎日小鍋を食べる自分は、少数派ってことなんだろうな」と思っていた。
ところが、どうやらまったく違うようなのだ。
日本テレビ金曜日のゴールデンタイムに放送されている『沸騰ワード10』(10月21日)では、「空前の“ひとり鍋”ブーム」と特集。あの朝日新聞「天声人語」(11月11日)でも「小鍋」が紹介された。
それで、世の中を見渡してみた。
すると、小鍋の時代の到来を実感するではないか。
スーパーに行けば、一人用鍋スープの素がめちゃくちゃ目立つ場所にドンと積まれている。種類も年々豊富になっているようだ。食器店や雑貨屋に行けば、大鍋より小鍋のほうが種類も豊富で目立っている。
「ちょっとおしゃれな小鍋でも買ってみよう」と思って、普段は縁のない”おしゃれエリア”である自由が丘の雑貨屋に行ったときに、レジの女性に思い切って聞いてみた。
「小鍋は売れてますか?」
すると、即座にこう応えてくれた。
「この2~3年ですかね、大鍋より小鍋のほうが断然売れるようになりました。若い方から年配の方まで年齢を問わず。おひとりさまに限らず、ご家族でも使っていただいてますね」
なるほど。よく考えてみたら、当たり前のことかもしれない。
今は一人世帯が増えている。調べてみると、5184万世帯中1678万世帯。約32%が一人暮らし世帯だ。それに、共働き世帯も増えている。2015年にはついに1000万世帯を超えたという。ウチと同じようなニーズをもつご家族が多いはずなのだ。
つまり、社会構造の変化により、大鍋の時代から小鍋の時代に変わったということか?そうだ!きっと、小鍋の隆盛は、社会変動を反映した現象なのだ。
そうなると、この「小鍋」、もっと研究してみる価値はあるのかもしれない。
いつも同じ味のワンパターンな鍋を変えてみたい。毎日食べても飽きない小鍋レシピはないのか。これは、自分だけの問題ではなく、社会的なニーズに違いない!