◇解明には新たなアプローチが必要

 意識は脳から生まれている。それはあらかじめ決定されたものではないし、逆にまったくのランダムでもない。脳そのものが厳密な生物学的システムであるにもかかわらず、それが可能なのは、特殊な「創発」が起きているからだと考えられる。

 つまり、意識はニューロンの相互作用から、新たな特性を持ちながらも、決定していない状態で出現している。それはまるで、アイザック・ニュートンの物理学が、決定論の法則にしたがっていながらも、その決定論自体は非決定論的でランダムな量子レベルの相互作用から生まれているのと同じである。

 科学者が意識についてほとんど何も理解していない理由のひとつは、意識がこうした非アルゴリズム的性質を持っているからだ。人間の意思決定はルールにもとづくものではない。自由意志と行為主体性は、脳の決定論的および非決定論的相互作用から生まれるものかもしれないが、依然として予測不可能なふるまいをする可能性を消すことは不可能なのである。

 意識が科学者の理解を超えているもうひとつの理由は、科学者のアプローチの仕方にある。思考、決断、そして意志による行動を、生物学的な働きの一部だととらえてしまえば、謎の解明は期待できない。意識の研究を行なうためには、これまでにない新しいアプローチが必要になるはずだ。

 そのためには、物理学の理解を拡張することが必要不可欠である。ボーアの時代、物理学という分野は、量子の相互作用を説明するために広げられた。これからの物理学も、思考の相互作用を含めるよう、再び拡張されるべきなのかもしれない。

一読のすすめ

 これは、自由意志という基盤を、「脳」から取り戻そうとするための冒険譚だ。神経科学、心理学、コンピューターサイエンス、哲学、文学、そして量子物理学……とにかく本書が扱う範囲は多岐にわたる。ぜひ、知を総動員してぶつかっていただきたい一冊である。

評点(5点満点)

著者情報

エリエザー・スタンバーグ (Eliezer J. Sternberg)

 イェール大学附属のイェール・ニューヘイブンホスピタルの神経科医(レジデント)。脳神経科学と哲学をバックボーンに、意識と意思決定の謎について研究している。本書を含め、3冊の著作がある。 

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