ベストセラー『明治維新という過ち』が話題の原田伊織氏は、これまで「明治維新とは民族としての過ちではなかったか」と問いかけてきた。
江戸という時代は、明治近代政権によって「全否定」された。
私たちは学校の教科書で、「明治の文明開化により日本の近代化が始まった」と教えられてきたが、はたして本当にそうなのか?
衝撃的なタイトル『三流の維新 一流の江戸』が話題の著者に、「幕末の三傑」への大いなる疑問を聞いた。
「幕末の三傑」とハリス、オールコック
作家。クリエイティブ・プロデューサー。JADMA(日本通信販売協会)設立に参加したマーケティングの専門家でもある。株式会社Jプロジェクト代表取締役。1946(昭和21)年、京都生まれ。近江・浅井領内佐和山城下で幼少期を過ごし、彦根藩藩校弘道館の流れをくむ高校を経て大阪外国語大学卒。主な著書に『明治維新という過ち〈改訂増補版〉』『官賊と幕臣たち』『原田伊織の晴耕雨読な日々』『夏が逝く瞬間〈新装版〉』(以上、毎日ワンズ)、『大西郷という虚像』(悟空出版)など
この時期、幕府を支えた実務官僚を指して「幕末の三傑」という言い方がある。
岩瀬忠震、水野忠徳、小栗忠順のことをいう。
私にはこれに若干異論があり、いうとすれば「幕末の四傑」ではないかと思っている。
川路聖謨が抜けているのだ。中には、いや、井上清直を入れないのも片手落ちであり、「幕末の五傑」というべきだと主張する人がいるかも知れない。
いずれも幕臣であり、幕末外交に奮闘した優秀な武家官僚である。
ハリスを全権とするアメリカ合衆国との間の日米修好通商条約に署名したのは、井上清直と岩瀬忠震である。
岩瀬は、その前にロシアとの間に日露和親条約を締結している。
水野忠徳はその後の日露交渉で川路聖謨を補佐すると共に、日英修好通商条約、日仏修好通商条約に日本側全権委員として署名した。
アメリカのあのハリスと英国の初代駐日外交代表オールコックが組んだ米英連合を相手にし、壮絶な通貨の交換比率交渉を展開し、鋭い知性でハリス、オールコックをたじたじとさせたのは水野忠徳である。
いずれも、現代の外務官僚と比べても、その見識の深さと東奔西走の行動力、外交モラルの高さには驚嘆すべきものがあり、外交特権を利用して卑しい私腹肥やしに汲々(きゅうきゅう)としていたハリスやオールコックと比べても水野の知性、倫理観、胆力というものは、彼らを遥かに上回っていた。