社員に愛され、顧客に愛され、地域に歓迎される会社だけが生き残る

──若い人たちにこそ読んでほしいというのはなぜですか?

今の学生から20代、30代にかけての「ミレニアル世代」にとって、ソーシャルシフトの考え方はむしろ当たり前で、はじめから違和感がないんです

 僕が4回のリブートを経て到達したのは、「ソーシャルシフト」という考え方でした。人々がソーシャルメディアによって緊密につながり、ウソやごまかしの効かない「透明な時代」に、自分だけが儲かればいいという独善的な考え方は通用しません。社員に愛され、顧客に愛され、地域に歓迎される、三方よしの企業だけが生き残れる時代になってきました。

 世の中はきれいごとだけは動かない。相手を騙したり、誰かを陥れたり、従業員を安くこき使ったりして、とにかく儲けた者勝ちなのがビジネスだ。そういう古い考え方は敬遠され、ブラック企業だとレッテルを貼られて、市場から退場を余儀なくされる。そういう時代になっています。

 今の学生から20代、30代にかけての「ミレニアル世代」にとって、ソーシャルシフトの考え方はむしろ当たり前で、はじめから違和感がないんです。しかし、彼らの上司の世代にとっては違う。若い人たちはそのギャップに苦しめられるかもしれません。

 一方で、中間管理職や経営トップの方々も、一人の人間として接したときはいい方ばかりなんです。でも、組織の中に入ってしまうと、社会規範ではなく、損得勘定で動くのが当たり前になってしまう。そうした常識を変えたいという気持ちがあります。それは、僕自身のコンサルティング活動でもあります。

──ご著書の『ソーシャルシフト』(日本経済新聞出版社)にもあるように、だいぶ世の中が変わってきました。

 大学の講義でソーシャルシフトを体感してもらうために、グループワークのテーマとして「大手出版社の読者プレゼント水増しが発覚、内部告発した女性社員が解雇された事件」を取り上げたことがあります。1990年、2000年、現在という3つの時代に分け、それぞれの時代に同じ事件が起きたとしたらどうなるか、1人は女性役、1人はその上司役、1人は社長役のように役割を決めて、グループごとにロールプレイしながら考えてもらいました。

 携帯電話もインターネットもなかった1990年は、どうしようもなく内部告発はもみ消されたのではないかという結論になりました。2000年には匿名掲示板の「2ちゃんねる」がありました。掲示板に書き込みはあったかもしれないけれども、なかなか世間一般まで広がらないだろうと。当時、フレックスファームもずいぶん書かれましたが、匿名掲示板は「便所の落書き」扱いで、誰もが信用したわけではありませんでした。しかし、今ならものすごい勢いで拡散されて「炎上」したはずです。2013年の時点でも、ネットではかなり話題になりました。悪いことができない時代になったのです。

 若い人たちは「今」の感覚で生きていますから、企業の不正はいつかは見破られるものだと思っていますし、ソーシャルメディアの力を当たり前のことだと感じているかもしれませんが、昔は決してそうではなかった。そして、管理職以上の人たちは昔の感覚で生きているので、そのギャップが大きいですね。