特に、省ごとのGDPを見ると、それなりの対応が必要だ。労働者の流出や低賃金環境が続く“東北三省”の一つ、遼寧省では、2016年上半期の成長率がマイナス1%程度に落ち込んだ(中国のGDPに占めるウェイトは4%程度)。背景には、生産調整によって重工業分野の収益が落ち込んだことがある。加えて、腐敗取締りによって省トップをはじめ多くの官僚、議員が摘発されたこともマイナス成長の原因とみられる。これは習近平と、かつて同省のトップを務めた李克強首相の権力闘争が一部地域の経済を圧迫していることを示している。

 習近平にとって政敵を排除すると同時に、こうした地方経済の再生を進めることは民衆からの支持を獲得し、権力基盤を強化するために欠かせない。これは、成長が鈍化したのは旧来の為政者の資質に問題があったからであり、習体制下での腐敗撲滅、改革こそが安定した経済を整備するという民衆に対する政治的なアピールと言い換えられる。このように、中国の経済政策の裏には必ずと言っていいほど、習近平の権力獲得、支配強化への考えが反映されている。

歯止めが掛からない
中国の覇権主義

 習近平が権力基盤を強化するためには、海洋進出や中国を中心とする経済連携の策定も重要だ。海外の需要を取り込むことは、過剰生産能力の解消など経済のサポートにつながる。中国が基軸となって多国間での経済連携をまとめれば、中国が世界経済の中心というメッセージを民衆に発信することもできる。それは漢民族の繁栄を中心に中国が世界を主導するという中華思想を実行に移すことに他ならない。

 すでにトランプ氏がTPP(環太平洋パートナーシップ)協定から離脱すると表明したことを受けて、中国は自国を中心とした経済連携協定であるRCEP(東アジア地域包括的経済連携:Regional Comprehensive Economic Partnership)の早期妥結を目指している。TPPには日米を中心に貿易、投資、知的財産などに関するルールを統一するという意義があった。それに加えて経済の側面から対中包囲網を形成し、中国の身勝手な進出を食い止める目的もあった。その実現が困難となった今、中国が一気呵成に覇権強化を目指しても不思議ではない。

 そこで重要なのが米国の出方だ。足許、中国は米国のトランプ次期大統領が、どこまで本気で対立しようとしているのか、本心を測りかねているようだ。トランプ氏が“一つの中国”の外交原則を無視し、単独で台湾の蔡英文総統と会談を行ったことに中国が懸念を表明するのは当然の対応だ。

 一方、トランプ氏の主張には一貫性がない。習近平と交友関係にあるブランスタッド・アイオワ州知事が駐中国大使に指名されるなど、次期政権の本心を読み切れないのが実情だろう。

 ただ、トランプ次期大統領は国際社会の安定を支える強い米国ではなく、米国民の利益を第一に考えている。どうしても中国が覇権を手に入れようとする動きは目立ちやすい。米国の対中抑止力が弱まると考えられる中、目先のインフラ投資などを見込んで親中路線をとる国が増えても不思議ではない。2017年、米欧中を中心に世界経済は政治の年を迎える。わが国は、経済基盤の強化を図るために、自力で経済連携の議論を主導し自国のシンパ獲得に力を入れていく時に来ている。

(信州大学教授 真壁昭夫)