「明治維新」は失敗に終わった

 ここに、岩倉具視と薩摩長州の偽勅許による討幕、軍事クーデターによる討幕のオーソライズの策謀は敗北した。

「明治維新」は失敗に終わったのである。

 小御所会議で決定したはずの「辞官納地」も、暮れも押し迫った十二月二十八日、慶喜が朝廷からの「辞官納地の諭書(さとししょ)」に対する返書を出すが、諭書の内容は、

・徳川慶喜の内大臣辞任(前内大臣として処遇する)を認める
・徳川慶喜が最高執権者として諸大名会議を主宰する
・諸大名会議で朝廷へ「献上する」費用の分担割合を取りまとめる

 というものであり、「辞官納地」は完全に骨抜きにされたのである。
 俗にいう「明治維新」の核となる出来事が「大政奉還」と「王政復古の大号令」であることは、学校教育でも一貫して常識であったが、以上のような史実が存在する以上、学校教育は「この時点では明治維新は失敗した」と教えるべきではないか。
 少なくとも、「王政復古の大号令」が完璧に失敗、偽勅による幕府転覆の策謀が未遂に終わったことだけは、教育というものの良心に拠って立って明瞭に教えるべきであろう。

原田伊織(Iori Harada)
作家。クリエイティブ・プロデューサー。JADMA(日本通信販売協会)設立に参加したマーケティングの専門家でもある。株式会社Jプロジェクト代表取締役。1946(昭和21)年、京都生まれ。近江・浅井領内佐和山城下で幼少期を過ごし、彦根藩藩校弘道館の流れをくむ高校を経て大阪外国語大学卒。主な著書に『明治維新という過ち〈改訂増補版〉』『官賊と幕臣たち』『原田伊織の晴耕雨読な日々』『夏が逝く瞬間〈新装版〉』(以上、毎日ワンズ)、『大西郷という虚像』(悟空出版)など