ニューヨークと東京を往復し、世界中の書籍コンテンツに精通するリテラリーエージェント大原ケイが、トップエリートたちにいま、読まれている話題の最新ビジネス書を紹介する新連載がスタート。第1回目は、すでに世界30ヵ国で出版が決まるなど大きな話題となっている、『やり抜く力』をご紹介!
アメリカン・ドリームを叶える新しい成功者の条件
11月8日に行われるアメリカの総選挙に向けたキャンペーンがそろそろ終盤を迎えつつある。毎度よその国のことながら、もう何年もバラク・オバマの次は誰が大統領になるのか、いつまで選挙活動を続けるのか、その長丁場ぶりにはいつも感心する。
暴言癖の不動産王、ドナルド・トランプが共和党大統領候補として予備選に参戦してから既に1年以上経つが、民主党のヒラリー・クリントン前国務大臣に至っては、8年前にまだ無名の若手候補だったオバマと熾烈な予備選を争って以来、あきらめずにずっと「大統領になる」ことを目標に走り続けてきたとも言えるわけで、そのスタミナには驚かされる。
何においても個人主義が行き届いているアメリカでは、天性の才能がある人が特別扱いを受け、成功することに誰も異論を唱えたりはしない。先進国とは思えないほどの貧困がある一方で、トランプ氏のような超富裕層の豪遊や消費を見せつけられても、それを不公平だと批判をすることもない。
いくらトマ・ピケティが『21世紀の資本』で、格差社会の行く末は不安定なものだと諭しても、貧富の差を縮めようという気はさらさらないようだ。
ただし、この国の「アメリカン・ドリーム」とは、生まれ持った才能や、親から受け継いだものだけではなく、自分だけの力で立身出世して成功することを指す。そのためには努力もおしまない。
ヨーロッパ諸国と比べても、アメリカ人の平均労働時間が長いのも、仕方なくサービス残業をさせられているのではなく、やればやるだけ儲けられるというモチベーションがあってのことだ。
アンジェラ・ダックワース著、神崎朗子訳
ダイヤモンド社刊 定価(本体1600円+税)
本書の著者、アンジェラ・ダックワースはお金のためというよりも、そんな「夢」に向かってがむしゃらにキャリアを積み上げてきた人だ。ハーバード大学やオックスフォード大学で脳神経科学を専攻し、博士号を取った後はコンサルエリート集団であるマッキンゼーに入社。
そんな人も羨む職場をスパッと辞めたかと思えば、ニューヨークの公立校で中学生に数学を教える教師に転身。
だが、そのまましがない教師に終わらない。数字にパッとひらめく生徒よりも、最初はまちがえながらもコツコツと宿題に取り組む生徒の方が結果的に伸びることに気づいたダックワースは、そこに「GRIT(グリット)」という、新しい成功法則を発見した。