私が売上よりも早帰りを優先したのは、「今、早帰りに取り組んでおけば、短期的に売上が下がっても、長期的には有利になる」からです。

 人は財産です。
 社員を大切にしない会社に未来はありません。

これからの時代は、「人を大切にする会社」「人が辞めない会社」が生き残る

 そして、人が辞めない会社をつくるには、早帰りの文化を根づかせることが急務です。

「最近の若者は根性がないからすぐに辞めてしまう」といった論調をよく耳にします。

 しかし、本当に辞める側だけが悪いのでしょうか?
 私はそうは思いません。

 社員が定着しないのは、会社側にも問題がある。
 だから、「ブラック企業」と言われないよう、残業を減らす必要がある。

横断チームが社員の意識を変え、
残業が2分の1に

 カルモ鋳工(ちゅうこう)株式会社(兵庫県/アルミ加工、銅合金の鋳造)も、部門横断の「残業改善委員会」を発足させ、残業時間の削減に取り組んでいます。

 高橋直哉社長は、委員会を立ち上げて、「残業に対する社員の意識が大きく変わった」と手応えを感じています。

「残業改善委員会は、残業時間を『1年間で月平均40時間以内にする』ことを目標にした委員会です。
 部門ごとに、『自分たちの部門は、どれだけ残業を削減できたか』を毎月、報告させます。
夜9時以降の残業を禁止し、『9時前に帰るには、どうしたらいいのか』をメンバーで検討しています。
 この委員会ができて、社員が『残業は問題である』『残業は悪である』という意識を持つようになりました。
 実際に、対前年同月で平均77時間あった残業は、ひとりあたり『38時間』と半減しています」(高橋社長)

 名古屋眼鏡株式会社(愛知県/メガネ用品販売)も、「ワークライフハーモニーチーム」という部門横断チームがあり、早帰りの推進に取り組んでいます。

「当社は、仕事がないのに会社に残る文化がありました。地方から出てきてひとり暮らしの社員にとっては、家に帰っても退屈です。
 だから会社に残ります。
こうした文化を変えるには、2つの方法があると思います。
 ひとつは、社長が早帰りを強制するハードランディングな手法。
 もうひとつは、社員の自主性に委ゆだねるソフトランディングな手法です。
『ワークライフハーモニーチーム』は、後者にあたります。
 社長が早帰りを強制すると、抵抗勢力が出てきますが、『ワークライフハーモニーチーム』は労働組合ではなく、自発的に問題を解決する組織で、幹部と社員の対立は起きません」(小林成年社長)

 名古屋眼鏡の「ワークライフハーモニーチーム」は、「20時半までには帰る」を目標に、さまざまな啓蒙活動に取り組んでいます。

社内にプロジェクトチームをつくって、社員みんなで考える。小さな一歩から進めていく
 残業の文化をなくすには、それが一番取り組みやすいのではないでしょうか。
 何万人も社員がいる大企業だったら、部門長や経営幹部が仕組みを考えると思いますが、社員50人であれば、社員自ら、自分たちの会社をつくっていくこともできると思います」(小林社長)

小山昇(Noboru Koyama)
株式会社武蔵野代表取締役社長。1948年山梨県生まれ。日本で初めて「日本経営品質賞」を2回受賞(2000年度、2010年度)。2004年からスタートした、3日で108万円の現場研修(=1日36万円の「かばん持ち」)が年々話題となり、現在、70人・1年待ちの人気プログラムとなっている。『1日36万円のかばん持ち』 『【決定版】朝一番の掃除で、あなたの会社が儲かる!』 『朝30分の掃除から儲かる会社に変わる』 『強い会社の教科書』 (以上、ダイヤモンド社)などベスト&ロングセラー多数。
【ホームページ】http://www.m-keiei.jp/