いつの間にかその道のプロになっている、そんなプロへの道が実はあるのです。一つケースを見てみましょう。このコーナーでもかつて紹介させていただいたケースです。

 Nさんは、元大手広告会社の社員です。東京の国立大学を卒業し、入社後、大阪から東京と営業畑を歩んでいましたが、入社から5年ほどして、それまで心に秘めていた環境問題を学ぼうと休職して渡米し、留学をしました。

 帰国後、人材開発室に配属、そこから様々な部署を渡り歩きますが、一貫して自身のテーマである環境やサステナビリティ(持続可能性)に関連する業務を行ってきました。さらに、社外活動として、多数のワークショップを企画したり、4つの大学や大学院の講師を務めるに至ります。加えて屋久島の庵で、人と人、人と自然、人と自分自身を見つめ直すワークショップ施設を開き、今ではその庵の主になっています。

 彼は在職中に、ワークショップに関する本を出版しました。それがきっかけとなって講演や実際のワークショップの企画の話が舞い込むようになり、ワークショップ企画プロデューサーという肩書を持つようになりました。

 Nさんの転機は40歳の時だったそうです。いろいろな理由から会社を辞めようと思ったそうですが、その時に「自分は何で食っていけるんだ?」と自問自答をしました。「自分は何者なんだ?何ができるんだ?」と考えていくと、「これまでやってきたことは、所詮、他人の褌で相撲を取っていたようなものだ」と気づいたのです。

 だから、自分の手の及ばないところではなく、小さくてもいいから自分でやれる範囲のことをやろうと思ったそうです。そして、二つの決意をしました。一つは規模が小さくてもいいから自分の納得できるワークショップを作ろうというもの。もう一つは、それまで交流のあった仲間と、相応の時間を掛けて、本当にやりたいこと、自然と、その先にある自分らしさに出会い、最後に自分の天職を作る「自分という自然に出会う」という、生き方を見つめるワークショップを作り上げることでした。

 基本にある考えは、仕事というのは一つではなく、自分らしさや、自分が何者かを考え、そこから見える自分の存在意義や純粋意欲を活かせるものも天職という一つの仕事であり、それはお金にならなくても人生を豊かにする、というものでした。それを見つけていくワークショップです。

 Nさんのテーマは、自分探しであり、環境問題であるわけですが、彼がワークショップを行う上で身につけた新たなプロフェッショナリティは、ファシリテーション(会議などの集団活動がスムーズに進むように、成果が出るように支援すること)の技術でした。参加者をファシリテートし、自ら気づくべきことに気づくように導く。実際のワークショップ経験を通して、彼はその道のプロになっていったのです。

 Nさんの例は、社会人基礎力、会社で用いる専門知識、ならびに元から身につけていた基礎学力に加え、人柄(人間性、性格)や問題意識などが見事にかみ合って構築することのできた新たな40過ぎからのプロフェッショナリティだと考えられます。