企業で起こる事故の80~95%が、一従業員の「非安全的」な行動から起きる。安全対策に多額の費用をかけられるはずの大企業でも、なぜ事故を防ぐことができないのだろうか?(インタビュアー:中村富美枝)

──企業生命に関わるような大きな事故の、本当の原因は何なのでしょう?


石田 どれほど大きな事故であっても、そのほとんどがたった一人の従業員の小さな行動から起きています。企業事故の80~95%が一従業員の悪気のない「非安全的」な行動から起きるということがわかっています。航空機事故にしても、一人の管制官、一人の操縦士、一人の整備士などが小さなミスを犯したことから起きるのです。

 今年2月、韓国高速鉄道KTXが脱線事故を起こしました。その原因もコントローラーの一本のナットの緩みにあったと言われています。まさに、一人の整備士の小さなミスが引き起こしたことでした。


──幸いにも乗客にけが人は出ませんでしたが、KTXは諸外国に売り込みの真っ最中でしたから、非常に影響が大きいですね。


石田 一国の経済に影響を及ぼす大問題ですよ。それが、たった一人の従業員の行動ミスで起きてしまう。

 日本企業も我がこととして考えなければなりません。もちろん、事故を望んでいる経営者などいません。しかし、いくらトップがうるさく言っても、最後は現場の従業員一人ひとりが正しい行動をとってくれなければ事故は防げないということです。


──トップの安全管理意識が、現場の従業員に浸透しない理由は何でしょうか?


石田 安全行動というのは、ごく当たり前のことであり、やっても達成感が得られません。毎日、同じようにナットの締まり具合を確認しても、誰が褒めてくれるわけでもない。ましてや、実際にナットが緩んでいることなどほとんどないということであれば「今日ぐらい、いいや」と思ってしまいます。そうした小さなことから、大事故は起きるのです。