夫婦間の雑談こそ要注意

雑談のルールを知るだけで夫婦・家族仲はよくなる齋藤 孝(さいとう・たかし)
1960年、静岡県生まれ。東京大学法学部卒業。同大学院教育学研究科博士課程を経て、明治大学文学部教授。専攻は教育学、身体論、コミュニケーション論。テレビ、ラジオ、講演等、多方面で活躍。
著書は『声に出して読みたい日本語』(草思社)、『読書力』『コミュニケーション力』(岩波新書)、『現代語訳 学問のすすめ』(ちくま新書)、『質問力』(ちくま文庫)、『語彙力こそが教養である 』(角川新書)、『雑談力が上がる話し方』『雑談力が上がる大事典』(ダイヤモンド社)など多数ある。
撮影/佐久間ナオヒト

 仕事であれば、「中身のある話」だけでも成立するかもしれません。
 しかし、夫婦は家族の場合、むしろ「中身のない話」が日常生活のほとんどを占めます。

 夫婦の会話に悩む男性の多くは、夫婦間において前者の「中身のある話」はできても、後者の「中身のない」雑談ができていないのです。

 なぜできないのでしょうか。
 それは、「すぐに結論を出そうとする」という男性の会話特性にあります。

 女性に比べて男性は、会話の途中ですぐに「つまり?」「それって、こういうことでしょ」と話をまとめようとしたり、「結局のところ、言いたいことは何なの?」と結論を急いだりする傾向があります。

 夫婦の会話でも、奥さんの「近所の奥さんからこう言われた」「どこそこのセールが安い」といった何気ない話に対して、ダンナさんは「それはお前のほうが悪い」と早々に決めつけたり、「だったら買えばいいんじゃない?」と話を遮って結論を促したりしがち。
 その結果、奥さんは「話をちゃんと聞いてくれない」と傷つき、「会話にならない」「わかってくれない」と、不満を募らせてしまうわけです。

 奥さんにすれば、そんな断定や結論など求めていません。
「そうなんだ」「そりゃひどいね」「男性もののセールはないのかな」と返してほしいだけ。
 感情を共有したいだけなのです。

 中身のない雑談をしたい妻と、落としどころのない会話が苦手な夫。
 この食い違いが夫婦間の会話、夫婦の雑談が盛り上がらない大きな原因になっているのです。

 具体的な会話で言うと、次のようになります。

 妻 「今日も寒くなりそうね」

 ここでの夫の返し方は「そうだね、こう毎日だと参っちゃうね」とか「手袋持っていったほうがいいかな?」など。

「手袋持っていったほうがいいかな?」は、質問というより、ひとり言に近いニュアンス。

 そうなると、奥さんも「早く暖かくならないかしら」とか「そうね、念のため手袋持っていったほうがいいんじゃない? 帰り遅いんでしょう」となる。
(「手袋を持っていく」が正解なのかとか、実際に持っていくかどうかは一切問わない)

 ところが、このような「中身のない」「意味のない会話」「相手とのいい空気を共有するための雑談」にもかかわらず、なぜか謎の反論をする男性陣は少なくありません。

 奥さんの「寒くなりそうね」に対し、「(俺の故郷の)北海道・札幌の1月の平均気温はマイナス3.6度だから、今日の東京は7度で決して寒いとは言い切れないだろう(だからオマエは間違っている)」

 これは大げさだとしても、何気ない相手の言葉についむきなって正論や自分の意見を返してしまいがちなのが、男性陣の悪いクセ。
 この瞬間に、相手といい関係を築くための「何気ない会話」は、一気に「相手を打ち負かす道具」に変わってしまいます。

 知らず知らずのうちに、「相手とのいい関係を築くためのツール」を「相手を完膚なきまでに叩きのめす武器」にしてしまってはいないでしょうか?
 この積み重ねが夫や父に対する不満、あなたへの不信につながり、人間関係を悪くしてしまうこともあるのです。

 そもそも雑談とは中身のない会話。そこに結論や正解などあるはずもありません。
「このぶんだと、この雨は明日までやみそうにないですね」という話に、「何を根拠にそう言うのか。エビデンスを出せ」とか「つまり、何が言いたいの?」と返されたところで、答えようがありません。

 会話のみならず、相手との関係も強制終了です。
 雑談の目的は場の空気を和ませ、軽くすること。
 話に白黒をつけることではありません。
 雑談は雑談であって、議論ではないのです。

 次回はルール3「サクッと切り上げる」についてお話したいと思います。
(次の更新は3月3日予定です)

※この記事は書籍『会話がはずむ雑談力』の一部を、編集部にて抜粋・再構成しています。