計算にまつわる興味深いエピソード

 この本には、ミルナーの最初の論文にモレゾーンさんに計算をさせたエピソードが書かれています。

 数を繰り返して言うテスト(digit span test)がありますが、それをさせています(1955年、手術後2年)。
すると、ちゃんとできたのです!

 <例>5,8,4.
 これを、繰り返して「5,8,4,5,8,4」と言えるかどうか。
 20分間別のことをして、何を繰り返したかを尋ねても答えられない場合は、忘れてしまっています。

 また、よく答えられることがあった場合に、
「よくできましたネ、どうしてできたの?」
 と聞いたところ、
「5,8,4を足すと17になり、2つに分けると9と8になる。8を覚えて答えたのです」
 と答えました。

 そこで、ミルナーが、
「私の名前を知っていますか?」
 と聞くと、モレゾーンさんは、

「いいえ。すみません。私は記憶に問題があるのです」と。

 ミルナーが「私はミルナー博士で、モントリオールからきました」と言うと、モレゾーンさんは「モントリオール、カナダですね」と答えました。

 ミルナーが、
「ところで、数をまだ覚えていますか?」
 と聞くと、モレゾーンは、
「数? 数って何ですか」と。

 数のことや、自分が正しく答えようとしたことは、すべて忘れてしまっているのでした。

 最近、モレゾーンさんの執刀医のスコビル博士の孫のルーク・ディトリック(Luke Dittrich)が脳手術をした医師から見たモレゾーン像を書いた『PATIENT H.M.』を出版しています(2016年8月刊)。

 この本にもモレゾーンさんの計算話が紹介されていますが、コーキンの本には書かれてないものもあるので、併せて読まれることをお勧めします。