社会は、いろいろな人がいるからこそバランスが取れるものです。夫婦であれば、二人揃って動揺しても、二人揃って高揚してもバランスに欠けます。二人とも仕事を放り出して被災地支援に行ってしまったら、それこそ社会生活は破綻してしまいます。

 震災が原因で離婚問題に発展する夫婦もいるようですが、こうした極端な行動に走るのは、現在が平常な状態ではないからです。普段なら軽く受け流したり笑って済ませられることなのに、寛大になれなくなっているのです。

「人間は危機に直面したときに
本性が出る」はウソ

 「いざという時に、その人の本性が出る」という言い方があります。

 しかし、私は逆の考え方を持っています。こういう危機的な情況を迎えるのは異常な状態で、異常な事態に直面したときには、その人の本質ではない部分が出てくるというものです。

 ある企業に勤務する人に、こんな話を聞きました。

 いつもは何をするにもやる気のない態度を取る問題社員が、地震が起こった瞬間、普段とは違う形相でリーダーシップを発揮したというのです。
「そこにいる人はあっちから逃げて!」
「このグループは僕についてきて!」

 地震直後、同僚たちと「あの人は、本当はリーダーシップのある人なんだね」と驚きをもって話していたそうですが、非常事態が一段落すると、またもとの無気力社員に戻ってしまったそうです。

 私の知り合いもこんな話をしてくれました。

 いつもはパワハラをする嫌な上司が、地震が起こった瞬間に、たまたま隣に居合わせてしまったそうです。
「手を取り合って逃げよう」

 部下を部下とも思わないその上司が、彼女をいたわってくれたといいます。しかし、意外と頼れる人だったのかと思ったのもつかの間、その危機が過ぎてしまえば、やはりパワハラばかりする嫌な上司であることは変わらなかったそうです。