初刊行から19年を数えるロングセラー『大学図鑑!』の2018年版発売を記念し、監修者オバタカズユキさんがみなさんから寄せられた“大学選び”の悩みについて、独断と偏見で答えちゃいます。今回は、関東の明治学院と関西の立命館のどちらが就職に有利なのか、というお悩みにお答えします!(なお、本連載での回答は、就職や夢の実現を保証するものではなく、一意見として参考にしてください。受験生ご本人、親御さん、ご親戚からのご質問をお待ちしております!)
Q 東京在住の高校生の父親です。息子が、明治学院と立命館に合格しました。息子は、「あっちのほうが勢いを感じるから」と、わざわざ遠い立命館を希望し、入学することになりました。立命館のほうが入試偏差値は高く、せっかく難関に受かったのだから、私もそれで良しと思いました。ただ、就職では実際どうなのだろうか、決めてから気になっております。関西の上位大学と東京の中位大学とでは、就職はどちらが有利なのか。ズバリ教えてください。
A ご子息の大学入試合格とこの春からのご入学、おめでとうございます。現役で明学と立命館に受かったのは、ご子息の努力の成果だと思います。
そして、「あっちのほうが勢いを感じるから」と、実家を離れ、遠い関西の大学への入学を希望し決断したことも、たいしたもんだと評価してあげてほしく思います。
10年、いや20年ほど前からでしょうか。大学進学の地元志向がどんどん強まってきました。
長引く不況で、実家を離れた一人暮らしは家計に負担が大きいから、という理由もありますが、若者の生活保守化傾向も常に感じております。全国のどこの大学でも、通学に片道2時間以上もかけている学生が今では珍しくありません。中には新幹線通学もいて、その膨大な交通費のことを考えると、経済的理由だけで実家から通っているのか疑問に思うことがあります。
長距離通学の学生に理由を聞いてみると、「親も一緒がいいと思っているから」「家事とか楽だから」という大きく分けて2つの答えが返ってきます。
前者は、親思いの子ともいえますが、いつ子離れ親離れをできるのだろう?といらぬお世話でしょうが心配ですし、後者は学生の正直な本音であっても本人の自立心のなさに一言注文をつけたくなります。
有名精神科医が「最近の若者は20歳ではなく、30歳で成人するのだ」と言っていたことを思い出します。大人になるのが遅れている。それは先進国共通の現象なのだそうです。だから、いつまでも子どもっぽくても無理にそれを否定してはいけない、とのことです。
ですが、かといって私は積極的に肯定もできません。「大人になる」機会をなるべく早い段階から少しずつ経験していかないと、大学新卒でいきなり大人社会に放り出されて不適応を起こしたとき、大変苦労することになるからです。
昔気質のスパルタ教育は一方的な親の価値観の押しつけだから好きになれませんが、いつまでも子どものままでいさせるのも良くはない。その間のバランスが難しいところではないでしょうか。
関西上位私大のブランドは首都圏で通用するか?
話が、ご質問内容から外れました。関西の上位大学と東京の中位大学で、どちらが就職で有利か、という疑問でしたね。
お答えします。それは、圧倒的に関西の上位大学です。立命館大学ならば、ほとんどの企業に門前払いされることはないでしょう。加点評価する企業もたくさんあると思います。
ただし、です。
プラスに見てくれるのは、本社が関西にある企業か、東京などに本社がある会社の関西エリア限定型採用の場合です。
首都圏の会社が立命館というブランドをどれだけ評価しているか。
もちろん企業ごとに違いますが、ごくざっくり申し上げると、MARCH以下に見ているところも多いと思います。MARCH並みに見る会社もあるが、それより下に見る会社もたくさんあるということです。
ここでMARCHについて、少し説明します。これは大学受験業界用語でして、ご存じのように明大・青学・立教・中大・法政を意味しています。そこに学習院をプラスして、GMARCHと称することもあります。
簡単に言えば、関東私大のうち、早慶ランクの下に位置する準難関大学の一群なのです。受験用語ですが、会社の新卒採用の世界でも幅を利かせていて、MARCHの上か下かで、学生のランクを区分している会社がとてもたくさん存在します。特に、大企業でその傾向を強く感じます。
いや、どこの大学かなどもう古い、今は実力勝負の世界だ、という反論が矢のように飛んでくるのを覚悟の上で申し上げるのですが、実際に企業の人事マンと酒でも呑みますと、新卒就職における“MARCHの壁”の厚さを思い知ります。
「うちは地頭の良さを重視しているから」と最初は言っている人事マンでも、よくよく聞いてみると「MARCHまでに限って」であることが前提だったりします。「MARCHまでは、よほどの問題点がなければ書類は通過させますよ」とはっきり言う人事マンもいます。
「いや、うちは日東駒専(日本、東洋、駒澤、専修)だろうが大東亜帝国(大東文化、東海、亜細亜、帝京、国士舘)だろうが、あくまで個人を重視して選考している」と断言する会社も存在はします。でも、それは大企業では少数派です。しかも、実際の採用実績を見ると、「MARCHより下」の大学からはほとんど入社していない。学歴(大学名)フィルターって、想像以上に機能しているんだなと思い知らされます。
だから、そこそこの学力がある受験生には、「もうちょっと欲を出して、MARCH以上を狙おうよ」と私は言います。実際に受験生活が終わり、結果が「MARCHより下」の大学になったら頭を切り替え、決まった大学に胸を張って入学してほしいと心から思いますが、大学選び段階では“MARCHの壁”を意識せざるを得ません。
「東京での大企業就職」に振り回されない
で、話をまた戻しますと、ご子息の選んだ立命館は、関西においては私大の上位大学にほかなりませんが、首都圏では「MARCHより下」と見られることが多い。というか、より正確には、早慶クラスとMARCHクラスの私大は何らかの評価対象になり、あとの私大は「その他」扱いにされやすい。関西上位私大の立命館も、たいていの東京の大手企業からは「その他」として見られているように私は思います。
ご子息が合格したもう一つの明治学院は、入試偏差値の世界では「MARCHの一段階下」に位置しますが、就職の世界ではやはり「その他」です。大学名はあまり評価されず、他人よりも秀でた本人のポテンシャルを企業にどれだけ伝えられるかが勝負になります。いわゆる“いい会社”に入りたい場合、それが現実です。
ですから、首都圏での就職を考えているとしたら、立命館と明治学院のどちらが就職で有利か考えても、意味のないことだと私は思うのです。
それに、です。ご子息は自分の意志で立命館を選びました。お父様は「難関だから」同意したようですが、ご子息は立命館のほうにより「勢いを感じるから」関西に行こうと思ったんです。
「偏差値が上だから」「聞こえがいいから」「通うのが楽だから」となんとなく入学先を決める大学生はたくさんいます。しかし、ご子息はもっと積極的な意味を立命館に見出そうとし、入学を決めました。そういった意志がどんな花を咲かせるか、すごく楽しみだし、就職活動でもそこが武器になりそうじゃないですか。
ですから、その差の測りようもない就職の有利不利を気にするなんて、終わりにしましょうよ。先の見えない日本社会です。少しでも有利なところに、という親心はわかります。でも、その子どもへの思いが、過干渉になってしまっては残念すぎます。
大丈夫です。過剰なぐらい大学改革にアグレッシブな立命館では、大勢の意欲あふれる大学生がキャンパスライフを楽しんでします。東京で就職をしようとして“MARCHの壁”を感じたとしても、そんな古臭い壁を取り払った優良ベンチャー企業がご子息を欲しがるかもしれませんし、ご子息自身が大学時代に培った力で、いきなり国境の壁を越えた就職をするかもしれません。
先は分からない。だから、面白い。
そのくらいの楽観主義で行こうじゃないですか。
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