“③商品の販売と一体化した啓蒙活動”の必要性は、BOPの社会情勢が根底にあります。BOPの消費者にとって先進国から新たに持ち込まれた商品は、先進国の消費者と違い、その効用や必要性、使い方について予備知識がほとんどありません。衛生や健康に関連する商品を広めようと思えば、手洗いの重要性、栄養成分や効能の説明など、啓蒙活動も同時に行う必要がでてきます。この点もヤクルトはヤクルトレディが担うことができます。

 ここまで見てきたように、ヤクルトの商品と販売システムは、現在のBOP市場攻略のお手本となるような手法を半世紀も前に確立していたことになります。今までの本連載で取り上げてきた事例はすべて、過去に出された経営理論でリアルタイムの企業活動を分析、解説してきました。今回のヤクルトの事例は逆に、事例が先にあって、理論の発表が後になっています。

 『ネクスト・マーケット』は2004年に発表され、BOP市場で成功した世界中の企業が数多く紹介されていますが、残念ながらその中にヤクルトを含め日本企業は1社も入っていません。ホンダのバイク“スーパーカブ”などもBOP攻略の成功事例ですので、なぜ取り上げられなかったのだろうか、と不思議に思うのは日本人のひいき目でしょうか。プラハラード氏は昨年の4月に他界されているので、その理由を知るすべはありません。

 いずれにしても「新興国開拓は苦手」というのが全般的な日本企業への評価になっていますが、ヤクルトは身近で立派な成功事例として、もっと評価されていい事例でしょう。