「席料無料」の表示がある居酒屋、
はたして「お通し」は無料か有料か?

「〇〇が無料」などと勧誘されることがあります。わざわざ、こうしたことをアピールする場合、無料となるものが何か、それを無料とすることでビジネス上のどんなメリットを狙っているのか想像したいものです。

「席料無料」ということをアピールしている居酒屋があったとします。その場合には、この「席料」の意味は何かということを最初に考えます。もし、「お通し」を店として出さないことを意味するなら、「コスパ重視のちょい飲み派へのアピールかも…」などと想像します。ただ、本当にテーブルチャージを取らないというだけの意味で、「お通し」は断れないという店だとすると、「見せかけの安さ」をアピールするだけと考えらます。その程度のお店なら、料理やお酒などはまず期待はできません。早々に切り上げて別な店に行った方がいいかもしれません。客としてのこうした想像力が、お客様にアピールする立場に変わったときにも力を発揮します。

 前置きが長くなりましたが、ビジネスの世界での言葉遣いとして最たるものは「法令」での言葉遣いです。

「合理的な人間なら解釈できるはず」。法令の条文はこうしたことを前提に作られています。条文の解釈を学ぶことも、その条文の意味を理解することが直接の目的ではなく、この合理性を身につけるための訓練なのです。法令の条文には合理的な判断ができる者なら気が付くであろうシグナルが散りばめられています。

 簡単な例を紹介します。特定秘密法23条1項には次のような規定があります。わざわざ、こうした規定を置いたことは、重要なシグナルととられることができます。運用次第では表現の自由を奪いかねない法律であることを感じなければならないのです。

〇特定秘密の保護に関する法律
(この法律の解釈適用)
第23条 この法律の適用に当たっては、これを拡張して解釈して、国民の基本的人権を不当に侵害するようなことがあってはならず、国民の知る権利の保障に資する報道又は取材の自由に十分に配慮しなければならない。
2 略

 表現の自由にどんな危険性が及ぶのか、危険な運用がなされないためにどんな歯止めが規定されているのか、そもそも、そこまでしてこの法律が必要とされた理由とは何か、などと思いをめぐらすことがこの法律を理解することの出発点となるでしょう。

 シグナルを拾う、そしてその意味を法令の目的との関係で考える。これぞ法令の解釈であり、こうした「練習」を通じて、人は合理的な説明ができるようになったり、本質を見失うことなく仕事を進めることができるようになったりするものなのです。

 私が『元法制局キャリアが教える 法律を読む技術・学ぶ技術』『元法制局キャリアが教える 法律を読むセンスの磨き方・伸ばし方』でお伝えしたかったのも、法律を学ぶことの本質、すなわち法令を読むための最低限度の知識と、法令が放つシグナルを拾うための基本的な知識やスキルです。