ダメな理由2・退職金制度のままで資金手当がまったくできてない
具体的な改革課題として、早急に手をつけるべきは、退職一時金制度です。退職金規程だけで定めがあり、共済制度や企業年金制度を用いた計画的資金準備が行われていない制度の場合、放置すると必ず将来に禍根を残します。
退職一時金制度を簡単にいえば、「社員が辞めるたびに資金をかき集めて退職金を支払う」仕組みです。支払時には確かに全額損金扱いになるものの、事前準備を計画的に行おうとしても税制優遇がありません。
3月末決算の会社が、4月末の定年退職者のために退職金支払い額を確保しておいたら、(決算日をまたいだ以上は)会社の利益とみなされ法人税が課されるのですから、事前準備に励む社長はいるはずがありません。
しかし、こういうやりかたを放置していると、退職金倒産のリスクをはらむことになります。景気が良かったので大量採用をした年度の新入社員がいつか大量に定年退職を迎えたとき、今と比較にならない退職金支給額が発生し、巨額の資金繰りに社長は悩むことになるからです(例えばバブル時採用が多かった会社なら、10数年後に大量退職者が発生することになる)。
ですから早急に、退職給付制度の一部を事前準備型に切り替えていく必要があるのです。
ダメな理由3・現役社員のやる気につながっていない(定年社員だけ喜んでいる)
連載第一回で、退職金・企業年金制度を福利厚生制度ではなく、人事報酬制度と考えるよう指摘しました。これを言い換えれば「今働いている社員のやる気」につながる制度にせよ、という意味でもあります。
退職給付制度はとてもお金がかかる制度ですが、その制度で現役社員の労働インセンティブや会社に対するロイヤルティが引き出されているかは疑問です。ほとんどの社員は制度の存在すら知らなかったりします。知らない制度が社員のやる気を引き出せるはずがありません。
一方、定年退職者は退職金を受け取り大いに喜びます(期待していなかった反動かもしれませんが)。定年の日に涙を流しつつ会社への愛を語る人もいますが、明日から会社に来ない人材が会社へのロイヤルティがピークになっているようでは人事制度としては非効率的です。
退職金・企業年金制度の現役社員のやる気につながらない理由のひとつは「見えない」制度であるからです。ビジネスプロセスでは「見える化」が重要だとよく言われますが、退職給付制度も見える化が重要になっているのです。