私たちの体の中には、「体内時計」と呼ばれる時間が備わっています。
この体内時計を動かす源にあるのが「時計遺伝子」(体内時計をつかさどる遺伝子群)で、私たち人間の体はこの遺伝子によって、目覚める、お腹が減る、眠くなる、などといった生きるための基本的なリズムを刻んでいます。人体の活動の多くは時計遺伝子によって支配されているといってもいいかもしれません。
この時計遺伝子の働きに基づいた時間医学、時間栄養学といった最新の科学的知見をベースにしながら、体内時計に従って日々、常に快適で効率よく過ごす秘訣を紹介していきます。
なぜ、朝にはジョギングより
ウォーキングがおすすめなのか?
数年前から、主に社会人の間で朝活が流行っています。出勤前ですから、7~9時あたりに活動している人が多いでしょう。
こうした朝活をすることで、早起きのリズムをつくるのは悪いことではありません。
ただ問題は、そこに体がちゃんとついていっているか、ということです。
自分の体の状態に気を配らず無理をしていては、かえって体に負担がかかり、形ばかりの時間になってしまいかねません。まずは、朝にしっかり活動できる態勢(状態)をつくることが大事です。
食べる、寝る、呼吸をする、光を浴びる……生物はこうした活動のリズムを通して、健康を維持しています。
このリズムを無視した生活を送っていると、朝に活力が生まれず、脳が思うように働きません。そんな状態で朝から学んだり、体を動かしたりしても、疲労がたまるだけで仕事に差し支えてしまうかもしれません。
朝起きて光を浴び、まず脳内の視交叉上核にある「親時計」をリセットし、体のリズムを整える。こうした体内時計のスイッチングと並行して、眠っていた体は徐々に目覚め始め、体温が上がっていきます。すると、朝から心地よく活動できるようになるのです。
とはいえ、いきなり激しい運動は望ましくありません。
朝のランニングを日課にしている人もいると思いますが、朝はまだ体温が低く、体がしっかり起ききっていません。その状態で激しい運動をすると体に負担をかけることになり、かえって健康を害することにもつながりかねないのです。ですから、朝はウォーキングのような、体温上昇を助け、体がポカポカ暖かくなる程度の運動がおすすめです。ランニングする場合も無理をせず、こうしたポカポカ感を得ることを目標にしましょう。
朝の適度な運動は、脳を活性化させ、学習効果を高めることもわかっています。
ハーバード大学医学部准教授のジョン・J・レイティ氏は、著書『脳を鍛えるには運動しかない! 最新科学でわかった脳細胞の増やし方』(エリック・ヘイガーマン共著 野中香方子訳 NHK出版)の中で、運動することによって脳の神経細胞(ニューロン)の内部でBDNF(脳由来神経栄養因子)というタンパク質の分泌がさかんになり、脳の神経細胞や血管の形成が促される点を指摘しています。
「元来、わたしたちは体を動かすようにできていて、そうすることで脳も動かしている。学習と記憶の能力は、祖先たちが食料を見つけるときに頼った運動機能とともに進化したので、脳にしてみれば、体が動かないのであれば、学習する必要はまったくないのだ」(『脳を鍛えるには運動しかない!』)
具体的には、仕事をする前に運動をすることによって「まず、気持ちがよくなり、頭がすっきりし、注意力が高まり、やる気が出てくる」(『脳を鍛えるには運動しかない!』)、つまり、体温上昇が促されるだけでなく、脳も活性化するというのです。
どのくらいの運動量が適切かは人それぞれですが、これから朝に運動を取り入れてみようという人の場合、電車通勤を自転車に切り替えたり、1つ前の駅で下車してゆっくりウォーキングしたりするくらいがベストです。
目的は、あくまでも体温を上げることにあります。その過程で脳の働きがアップするというご褒美も得られるというわけです。
自分に合った距離や時間を見きわめ、1日の活動に備えましょう。