利益は上がっていても、「時限爆弾」を抱えている企業の特徴とは? 人気投資ブロガーで、『運、タイミング、テクニックに頼らない! 最強のファンダメンタル株式投資法』を出版したv-com2(ブイコムツー)さんが、投資に役立つ基礎知識をお伝えします。
ソフトバンク、JT、ライザップ、コロワイド…
なぜ、企業はIFRSを選ぶのか?
このところ、会計基準を日本基準からIFRS(アイファース・国際会計基準)に移行する企業が増えています。
2017年5月現在、上場企業では約140社が適用を決めています。
世界の投資家から見れば、どの国でも、同じ基準の下で財務諸表が比較可能になるため、望ましい話です。そこで、世界で事業を展開するグローバルな大企業が、IFRSを適用するのは自然な流れだと思います。
ところが、最近は、私がメインの投資対象としている中小型で株主優待を実施している企業でも、IFRSの適用が増えてきているのです。
たとえば私の持ち株では、RIZAPグループ(2928)、コロワイド(7616)がすでに適用しており、ブロードリーフ(3673)とパルコ(8251)が、次回の決算からの適用を表明しています。
なぜ、グローバル展開していない中堅企業も、IFRSを適用しようとするのでしょうか?
日本基準とIFRSの最も大きな違いは、のれんの償却が不要になることに関連するものです。
IFRSを適用する。
↓
のれんの償却が不要になる。
↓
その分だけ営業利益が増加する。
※ただし、将来の多額の減損損失計上リスクが残る。
投資家がIFRSに関して押さえておくべき点は、かんたんに言えばこれだけです。
過去に大きなM&A(企業合併・買収)を行って、「のれん」の残高が多額になっている企業は、日本基準からIFRSに移行することで、「のれん償却費」が不要になり、その分だけ、見かけの営業利益をかさ上げすることができます。
JTやソフトバンクは、のれんの残高が多額にあって、IFRSに移行した企業です。
また、上記のコロワイドやブロードリーフも、のれんの残高が多額にある会社ですね。
これらの企業は、日本基準の時よりも、見かけの営業利益がかさ上げされているのですが、同時に、時限爆弾のようなもの(のれんの巨額減損リスク)が埋め込まれている点に注意が必要です。
業績が好調なときは問題になりませんが、一部の事業が赤字になるようなことがあれば、一気に巨額の減損損失が生じ、自己資本が吹っ飛び、危機的状況になりかねないというリスクがあるのです。
すかいらーく、スシロー、マクロミルに共通すること
もう1つ、最近、IFRS適用企業で目立つのは、過去にMBO(経営陣による自社の買収)を行い、上場廃止となり、数年後に再上場した企業です。
たとえば、すかいらーく(3197)、ツバキ・ナカシマ(6464)、スシローグローバルHD(3563)、マクロミル(3978)などです(再上場ではないですが、類似企業にコメダホールディングス(3543)があります)。
詳しく説明すると難しくなるので省略しますが、どの企業も概ね以下のような流れが見えます。
MBOで上場廃止
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巨額ののれんと、借入金を抱える
↓
IFRS適用で、のれんの償却を不要に
↓
見かけの利益をかさ上げしたうえで、再上場
※のれんの減損リスクと借入金は残っている
興味がある人は、MBOによる上場廃止前の日本基準での財務諸表と、再上場後のIFRSによる財務諸表を比較してみると面白いですよ(特に貸借対照表)。
利益はそれほど変わっていないのに、資産側の「のれん」と、負債側の「借入金」だけが巨額になっているという特徴があります。
一連のプロセスで、会社に借金を負わせてトクしたのはいったい誰なのでしょう?
たとえば、「MBO 再上場 IFRS」などと検索すると、さまざまな人の意見が読めます。
なお、このような流れがあることを証券取引所も問題視しているのか、検証を始めているようです。
http://www.jpx.co.jp/rules-participants/public-comment/detail/d1/20161202-01.html
すかいらーくの売買判断と
日本郵政の時限爆弾
ここで、すかいらーくについて考えてみましょう。
私は、再上場後もずっと買いを見送っていました。
見かけの営業利益はよくても、前述のように、減損リスクという大きな爆弾を抱えていることを懸念してです。
しかし、このコラムの第1回でも書いたように、株主優待を3倍増しに変更したことで、ようやくのれんの減損リスクを上回るリターンが望めるようになったかな……と、最近買いを入れました。
私には、リスクが大きい企業に対しては、大きなリターンが望めないと投資しない、という投資方針があります。
すかいらーくは、リスクとリターンのバランスが取れたと判断して、初めて買いを入れたのです。
ただし、すかいらーくには別のリスクもあります。
筆頭株主のファンドが、いずれ売り抜けたいがために、株主優待の変更を行って株価を上げようとしたのではないかということは、優待変更時から言われています(そして実際に先日10%ほどの売り出しを行いました)。
おそらくファンドは、今後もどこかで売ってくると想像できます。
このように、ファンドの売りと、のれんの巨額減損リスクがあるということは把握した上で、それでも株主優待(+配当)のリターンが魅力的だと思えば、すかいらーくを安い株価のときを狙って買ってみるのも面白いのではないかと思います。
IFRSそのものは複雑ですが、個人投資家が押さえておくべき論点は限られています。
ほとんどはのれんに関連するものですので、のれんについてしっかり学んでおけば怖くありません。
発売中の私の著書『運、タイミング、テクニックに頼らない! 最強のファンダメンタル株式投資法』では、そもそも、「のれん」とは何かという所から説明しています。
本を読んでいただき予備知識を身につけた方は、先日の日本郵政の巨額減損のニュースも、深い所まで読めたのではないでしょうか?
日本郵政(6178)は、過去のM&Aで巨額ののれん残高があったため、今後IFRSを適用することを上場時に表明しており、何年もかけて、社内で準備している最中でした。
IFRSを適用すれば、見かけの営業利益を200億円程度かさ上げすることができるためです。
けれど、IFRSを適用する前に、時限爆弾が爆発(買収先のトール社の業績悪化により、巨額ののれんの減損損失が発生)してしまったため、今後、IFRSを適用しても、業績のかさ上げのメリットを得られなくなってしまったということが推測できます。
このように、投資家として必要な知識を身につけておくと、現実のニュースも深い所まで(報道されていない部分まで)想像できるようになります。
そういう体験を重ねると、知識を身につけていくことも、ずっと楽しくなります。
のれんやIFRSについてもっと知りたい方は、ぜひ、『運、タイミング、テクニックに頼らない! 最強のファンダメンタル株式投資法』を勉強のきっかけにしてみてください。